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最終準備


「ひっぐ、えっぐ……」


「なんでスバルの方が私より長く泣いてるのよ」


「だっでぇ〜〜〜」


人というのは自分よりも感情を爆発させている人を見ると冷静になるものだ。


その精神構造は妖精もさほど変わることは内容で2人である程度の時間を泣きじゃくった後、それでも昴がわんわんと泣くものだから、当の本人であるピリアはすっかり落ち着いてしまっていた。


昴の方は涙と鼻水で酷いことになっている。ほら、ティッシュ箱ごとあげるか鼻をかんで。


「ずびびび」


「あぁ、もう、はしたない……」


女子らしからぬ豪快な音に頭を抱える。朱莉とか碧ちゃんとか、千草だってもっとお淑やかに鼻はかむわよ?


そんな、男の子みたいな。いや、最近の男性は随分と大人しい人が多いから、男性ですらそこまて音を立てることは無いんじゃないかしら。


「スバルっていつもこんな感じですよね」


「そうね。もうちょっと女の子らしくした方が本人のためにもなると思うんだけど」


こればっかりは気質だろうか。周囲の視線などをかえりみない豪胆なところの悪い部分が如実に現れているようにしか見えないけど。


ただ、他人のことを思ってここまで自分の感情を爆発させられるのは美点も多い。


自分の感情を大きく表現できる人は、他人の感情も動かすことが出来る。


敢えて言うなら昴は役者だ。計算して行動しているか、そうじゃないかはわからないけど、他人の感情を動かしたり、変化させたりするのが得意なんだろう。


仮に計算してやってるのだとしたら、それはそれで末恐ろしいけどね。


「お待たせしました」


「はいはい」


まだ目尻が腫れてるけど、まぁ良しとしましょう。すっかり昴のペースに飲み込まれちゃったけど、ここからが私としては本題だ。


「さっきのこともあって申し訳ないことは承知なんだけど、良いかしら?」


「はい、答えられる範囲内で、ですけど」


ピリアは自分の立場を理解したのだろう。


今でこそ、人気のない一室に隠すようにピリアを運び込んでいるけど、今後時間が経てばそうも行かない。


このタイミングを逃せば私が彼女に直接アレコレ問う機会は無くなってしまうだろう。


現状、彼女は敵国からの脱走兵という扱いになって行く。

こればっかりは避けようが無い。ピリアは既に顔が割れていて、つい先日にも妖精達が暴走した件に直接絡んでいる。


脱走兵の保護、というよりは捕虜に近い立場になるだろう。

戦時下の捕虜の扱いというのは国にもよるけど、大抵良い扱いは受けるものじゃない。


特に、戦争というものに縁が無い妖精界では捕虜の扱いには慣れていないだろう。


人間界で捕虜に激しい拷問などを行えば、国際法違反となり様々な軋轢や非難を生むけど、そんなルールは妖精界には無い。


正直に言って、どんなことをされるか想像もつかない。


皆が皆、王族の私の言うことを素直に受け止めてその通りに動いてくれるとは限らない。

まして、先の暴走事件に直接関与してるともなれば、なおさら。


恨みつらみの矛先がピリアに集中する可能性は、高い。


「ショルシエが何を考えて貴女を引き込んだのかを知りたいの。正直、私から見て貴女は一般人にしか見えない」


そうなる前に、聞いておきたいことは聞いておかなければならない。

どうなってしまうか、わからないから。


我ながら酷い話だと思う。私は最初から彼女を見捨てる算段で動いているのだから。


「そうですよね……。貴女からしたら私は一般人ですよね」


「……?」


ただピリアはそれよりも別のところに意識が向いているようだ。


私からしたら、ピリアは一般人だという視点そのものに物申したいところがあるように聞こえるが、生憎私にはそれ以上のことわからない。


ピリア視点からは違うのだろうか。そういえば、最初に戦った時に私のことを偽者とか言っていたような。


「真白さん、明日じゃダメなんですか? ピリアは酷い怪我をしてますし……」


「大丈夫よスバル。それにあまり時間的猶予は無いし、私は立場上答える以外の選択肢は無いわ」


「でも……」


ピリアの怪我を労るスバルだが、残念ながらピリアの主張は正しい。


彼女はここで喋る以外の選択肢は実質無い。彼女自身も捕虜的立場であることを自認しているからこその言葉は重く、昴は渋々引くしか無かった。

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― 新着の感想 ―
第一次大戦の日本で捕虜になった人は割とまともな扱いだったとか。 ドイツ人捕虜を劣悪な環境に置こうとした上層部に対して、『捕虜は犯罪者ではないのだから人道的に扱うべき。』と、某少佐がいったことで人道的に…
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