大海の獣
「はぁ、はぁ、はぁぁぁ……」
『WILD OUT』と『魔法具解放』状態を解除すると、ガクッと身体が重くなる。これクソ疲れるな。戦場で迂闊に解除したらその場にぶっ倒れるかも。
適当に使って、解除して良い組み合わせじゃねーな。一応、本番はテレネッツァの『優しさ』のメモリーの補助が受けられるだろうけど、にしたって負担デカ過ぎだろ。
相当無茶苦茶な強化だってことはコレで嫌でもわかるな。強化の幅がデカすぎて、身体への負荷がデカい。もっと鍛えねぇとダメだな。
「いやぁ、流石に死ぬかと思ったわ」
「……お前はもう死んでるだろ。てか、さっきのアレ受けてピンピンしてんのバケモンかよ」
「いやいや、普通にボロボロだから。戦闘継続は無理ね。アレを受ける状況にさせられた時点で私の負け。いや~、普通に負けるとは思わなかったわ」
普通に歩いてウチの横に歩いて来たテレネッツァに悪態をつくと本人曰く、戦闘継続は不可らしい。
本当かよ。ウチから見るとまだまだ元気にしか見えねぇんだけどな。パッシオとかカレジがボロボロになってるところとか普通に見てるから、妖精がボロボロになるとどうなるかは知ってる。
テレネッツァの様子にそんな気配はない。そもそも2発連続でブチ当てた『固有魔法』を相殺か何かしてんだから歩いて来れてるわけだ。その時点でイカれてる。ウチは手を抜いてねぇぞ。
「死人に生傷が付くと思う? もう少しまともに喰らってたら魂ごと吹っ飛ぶかもと思ったわ」
「その辺の理屈が分かんなさ過ぎる」
肉体があるように見えるだけで、実体がねぇってことで良いのかそれ? だったら一応納得っすけど、よくわかんねぇわ。
花畑にどっかり座り込んで、大きく息をする。あぁ、疲れた。こんなに疲れたのいつぶりだよ。
勘は鈍っても、身体は鈍らないようにしてたつもりなんだけどな。やっぱ鈍ってたのか、それとも『WILD OUT』と『魔法具解放』の同時発動が格別にキツいのか。はたまたその両方か。
何にせよ疲れたわ。だけど、スッキリした気分もある。
「どう? 納得は出来た?」
「おかげで。手間かけた」
「ホント、手間がかかる妹分だこと」
色々全力でぶつけられて、頭の中が随分スッキリした。テレネッツァには嫌味を言われたが、まぁそりゃ言われるわなと苦笑いするしかねぇ。
サフィーリアのこともある。揃って手間のかかるバカたれだって言われても仕方ねぇよ。
「サフィーのこと、頼んだわよ」
「わかってる。必ず連れ戻す」
ウチを姉と慕ってくれたサフィーのことを実の姉のテレネッツァに託される。さしずめウチは次女ってところか。
ったく、ウチらの周りは義姉妹弟が多過ぎんだろ。ま、血の繋がりが無くたって家族同然になれるってことだわな。
むしろ血縁よりも強い繋がりまであるんじゃねぇかな。
だから、この約束だけは破っちゃいけねぇ。姉妹に嘘つくなんて、最低最悪だからな。
「2人とも-。終わったー?」
終わったのを遠巻きから何となく察したらしい真白が障壁で作ったジップライン的なのでこっちにやって来る。
こっちはこっちで相変わらず器用だなおい。レールだかワイヤーだか知らねぇけど、それ作りながら渡って来るなよ。てか、その障壁に弾性とか伸縮性とか再現してる技術は毎度なんなんだよ。
冷静に考えて意味わかんねぇだろ。だって障壁だぞ。障は隔てるとか邪魔するとかって意味で、壁はまんま壁だからな?
直接の意味で邪魔な壁だぞ。なんでその魔法にそんな便利特性が付与出来てんのか魔法を知れば知るほど意味わからんが???
「よっと。とりあえず怪我無い?」
「多少はあるけど、先に母ちゃん止めてやんねぇと危ねえと思うが」
「きゃあああああああ!!」
「あ、やば」
地面に着地した真白の後ろには、こういうアグレッシブルな移動に慣れてないだろう真白のオカン。つまり元女王様が悲鳴を上げながらこっちに来てた。
お転婆お姫様がよ。パッシオがいたら拳骨のひとつでもされてんじゃねえか?




