大海の獣
「ますますイイ感じじゃない。今のは私でも受けてたら死んでるわよ」
「こうしなきゃいけねぇんだろ。だったらやるしかねぇじゃねぇか。おかげでコツも掴めて来たぜっ!!」
喋っている間も振り回している『五百重波の海斧』をまた投げつけ、避けられた先にもう一つも叩きつける。
その間に最初に投げつけた方を回収。それに伴って来た水流と巻き込まれた土砂がまたその体積と重量を増やしていく。
攻撃をすればするほど、ウチの攻撃の威力も範囲も上がっていく。浜に引いては寄ってを繰り返す波みたいに絶え間なく、次から次へと押し寄せる波状攻撃。
「――っ!!」
それでも避け続けるテレネッツァを逃さないように。今度は叩きつけるんじゃなくて、鎖を目一杯伸ばしながら、目の前を扇状に薙ぎ払う。
遠心力も使って薙ぎ払われた巨斧はキレイにその軌跡をなぞって花畑を吹き飛ばしたその後を追従するように大量の水と土砂の塊がテレネッツァに襲い掛かる。
土石流か、津波か。そう表現するのが一番近いだろう広範囲攻撃。今までのウチには無かった攻撃にテレネッツァは目を剥きながら、水の道を作って攻撃範囲からの脱出を試みる。
テレネッツァの海属性の魔法はウチとは使い方が違う。
ウチが波や渦をイメージした魔法を使うのに対して、テレネッツァの海属性魔法は潮の流れとか海流とかだ。
自分で水の道を作って、それに乗って襲い掛かって来るスタイルだ。
聞くだけだと大したことないような気もするが、この水の道が超絶厄介。何せ、定型の形が無い。
縦横無尽に、網目の様に張り巡らせられるしその中を高速で動き回る。
そこから突然飛び出して来るし、それが本体とは限らない。水のダミーの時もあるし、水の道は斬っても意味が無い。
一瞬だけなら斬れても一秒も無い間に元に戻る。
蛇口から出てる水を手で切っても途切れるのなんてほんの一瞬だろ? それと同じさ。
自分で作った海流に乗って、縦横無尽に飛び込んで来る。テレネッツァみてぇな近接戦闘も魔法も強い奴がそうやって来るんだぜ?
恐ろしい以外にねえだろ。出来るだけこっちが押さないと、スピード差でこっちが負ける。
スピードでは勝てない。だったら、パワーと範囲で近寄らせない。これが近接スピード型を相手にする時の鉄則ってヤツだぜ。
「しぶといな!!」
「そのまま返すわよその言葉!! 徹底してて嫌らしいわね!!」
「徹底しなきゃ勝てないんで、ね!!」
上に逃げたテレネッツァに、海流の道を張り巡らされる前に攻撃することを徹底する。
さっき言ったテレネッツァの戦い方の欠点は海流の道が無いとテレネッツァは自慢の機動力を失うことだ。
始めは質量を使ったパワータイプだと思わせておいて、本筋の戦い方は機動力を活かしたインファイターだってだまし討ちみたいなのを容赦なくしてくる辺りも軍人って感じだよな。
負けはそのまま死だ。勝ちはその逆で生き残るための手段。そのためならどんなことだってするってのは生き死にが身近な軍人らしい考え方だと思うぜ。
適当やってたらシバかれる。半殺しレベルじゃなくて再起不能レベルでボコられる。そうなる訳にはいかねぇ。
色々ショックな現実ってのはあったし、見たくない自分の部分を見なきゃいけねぇってのも説教された。
自分の考えと求められてることの差を指摘されたり、まぁホント色々言われたさ。うんざりするくらい小言を言われて説教垂れられたさ。
だけど、それはウチが情けないからだ。出来るハズのことすら熟せてないからだ。自分でもそれは分かっててここに来たんだから、説教されてしょげてる暇なんて無い。
現状を打破したくて来たんだ。再起するために来たんだ。その結果で教えられた答えがビビらずに我を通せって言うなら、バカ正直にやってやるよ。
ウチは、ウチが守りたいモノを守る。世界だとか、世間だとか知った事か。スケールのデカいことは他の連中に丸投げだ。
付き合ってくれてありがとよ。おかげで、やっとわかったぜ。
今、目の前にあるやらなきゃいけないことの邪魔をするなら、全部ぶっ飛ば良いってな!!
「オラアアアアアアアァァァァッ!!!!」
鎖とそれに繋がった二つの巨斧を頭の上でぶん回して、巨大な渦を作る。空中にいるテレネッツァにも届く渦だ。
テレネッツァが逃げるための水の道も何もかも全部を飲み込んだ。これで逃げられねぇだろ。
「『二重・固有魔法』!!」
長ったらしい説教もこれで終わりだ。満足だろ、テレネッツァ。
「2発連続、受け切れるもんならやってみやがれ!! 『深き紺碧の大海』ッ!!」
『五百重波の海斧』の2本の巨斧、それぞれに纏わせた『固有魔法』を逃げ道を防がれて身動きの取れないテレネッツァに叩きこんだ。




