大海の獣
「おおおおおおおおぉぉぉっ!!」
雄叫びというより咆哮を上げながら、ギリギリで意識を繋ぎ止める。『固有魔法』発動の瞬間に意識が飛ばなかっただけ3年前より成長したって言えるだろうけどよ。
それでも完全にコントロール出来たとは言えねぇ。今からでも暴れ出しそうになる身体を何とか抑え付けてこそいるが、それだけでいっぱいいっぱいだ。
「さぁ、行くわよ!!」
そんなの知らねぇと言わんばかりに飛び掛かって来るテレネッツァ。人魚が拳構えて突っ込んで来る絵面はまぁまぁシュールだが、こっちは笑ってる余裕なんて一つも無い。
吠えながら吹っ飛んで行きそうな身体を抑え込んで、ヴォルティチェを握りなおして振りかぶる。
「うおあぁぁ!!」
さっきまで打ち負けていたテレネッツァの拳に対して一撃耐えて見せる。
『WILD OUT』は身体強化の魔法だ。むしろそれ以外の効果はない。っつーか、ウチの魔法はほぼ身体強化の魔法だ。
『WILD BLUE』、『DEEP BLUE』も基本的には身体強化以外の効果はほぼ無い。
『WILD BLUE』の方は『優しさ』のメモリー、つまりテレネッツァの補助を受けて欠陥だらけの『固有魔法』、『WILD OUT』の最大の欠点である意識を失って暴走状態になるところを抑え込んだ魔法。
『DEEP BLUE』は『WILD BLUE』の発展形で、身体強化の強化幅を上げながら海属性の強化まで行った形だ。『優しさ』のメモリーからテレネッツァの力を更に引き出したって解釈できる。
それに対して『WILD OUT』はウチだけがコントロールする身体強化魔法なんだが、この通り欠陥しかない。
「はあぁっ!!」
「ぐっ?!」
右の拳が止められたのなら、左の拳を振り抜けばいい。単純な話だ。それにウチは自分を抑え込むのに精一杯で防ぐことも出来ずに地面に叩きつけられる。
これだから欠陥魔法なんだ。ウチの魔法操作能力が低いってのはあるが、発動者がコントロール出来ない『固有魔法』なんて聞いたことがねぇ。
使いどころが難しい『固有魔法』なら聞いたことはあるし、真白のやつなんか最たる例だ。アレは集団戦じゃねぇと意味が無い魔法だからな。
ところがウチの『固有魔法』、『WILD OUT』は爆発的な身体強化を出来る代わりに意識が飛んで敵味方関係なく攻撃を始めやがる。
「がはっ、ごほっ」
「相変わらず酷いモノね。自分を抑え込もうとしてるせいで全然戦いに集中出来てないじゃない。そんなザマで『魔法具解放』出来るの?」
「テメェがやれって言ったんだろうが……」
悪態を吐くウチを見てテレネッツァは楽しそうに笑ってやがる。若干性格が悪そうなのは『魔力解放』の影響か。
気分が高揚してるんだろうよ。テレネッツァの『魔力解放』もウチの『固有魔法』と似たような性質を持ってるってわけだ。
「懐かしいわ。私も昔、『魔力解放』をするたびに暴れまわって一時期は使うのが怖かったくらいだから」
「じゃあコツくらい教えろよ」
「それじゃあつまらないでしょ? それに、言って分かるようなモノじゃないわ。こればっかりはあなたが身体で覚えること。それに付き合ってあげるって言ってるの」
チクショウ、そう言うことかよ。自分が似たようなことを経験してるからこそ教えたところで意味が無い。
頭でうだうだ考えるなってこと自体がヒントかよ。そもそも教わってどうこう出来るもんじゃない。
身体で覚えて、自分でどうにかしろってことだ。このスパルタ野郎。
「ほらほら行くわよ。ただの『固有魔法』だけでやるつもりなら受けきれなくて死ぬからね!!」
本当に容赦なく、立ち上がってウチに向かって飛び込んで来る。このままじゃボコボコにされて終わりだ。
コントロールが出来ないのなら、せめてこっちの基礎スペックを上げて誤魔化すしかない。
バカみたいにリスクが高い。だが、やらなきゃテレネッツァは本気でウチを見限って殺しに来る。
コイツは組織の上に立っていたヤツだ。足切りに遠慮なんてしないさ。




