花園へ
「ミルディース王国の『繋がりの力』については何か詳しい伝承とか残ってるの?」
「最も『繋がりの力』にとって根幹の力だと伝わっているわ」
それは確かに間違いないと思う。私が認識している『繋がりの力』とは人と人を繋げる力だ。
これは使おうと思えば良縁を紡いだり、肉体と魂の結びつきすら触ることが出来る。使い方次第では世界の理そのものに干渉することすら出来るような力だ。
事実、私は要ちゃんに対してそういう力の行使をしている。肉体から剥離した魂を『繋がりの力』で無理矢理繋ぎ止めて、肉体に強制的に戻した。
そのせいで、あの世に触れた要ちゃんは人間では無くなってしまった。この件については今でも悩んでいることだ。
何もしなければ、要ちゃんは死んでいた。でも、私が余計なことをしたせいで要ちゃんは二度と普通の人間として生活することは出来なくなってしまった。
何が正しかったのかは、きっと一生かけてもわからないことだろう。これは私が一生悩み苦しむべき罪の1つだと思っている。
個人的に問題なのはそれを当の本人が全く気にしている様子が無いことなんだけどね。
あの能天気な顔を見ていると悩んでいるこっちがバカらしくなってしまうのが本当に困る。
更には自分から人間を辞めたバカが他にも2人も出てしまった事だ。1人はドラゴン、1人は妖怪。
どうなってるんだ私の周りの倫理観は。全員頭のネジが緩んでるんじゃないかと本気で思う。
ともかく、人と人を繋げる力はまさに『繋がりの力』そのものと言って良い。逆にそれ以外の能力が何かあるのかがよく分からないけど。
「ミルディース王家の『繋がりの力』は獣と人を繋いで心を共有させるための力なの。つまり、獣を妖精に変える力。これが無かったら妖精は獣から元に戻ることは出来ないわ」
「繋いで花園に拉致ったら心が何かを強制的にわからせる、かぁ。だいぶ力技だなぁ」
「そもそもこの花園の花は心を蓄積したものが花の形をとったもの。ここに獣が連れて来られた時点で正気に戻るでしょうね」
それはもはや一種の洗脳装置では? と一瞬思うけど、必要なことだしなぁ。そっか、だからパッシオと私を繋いだら正気に戻れたんだ。
紫ちゃんが思い付いた仮説が獣が妖精であると知って、そこからすぐに『繋がりの力』がキーパーソンだと気が付いたのは流石だ。
私だったら混乱するばかりでそこにいきなり点と点が繋がることは無かったと思う。
あの時、紫ちゃんからの連絡が無かったらきっと私はここにいない。
「ていうかさ、その蓄積した心が模してる花、滅茶苦茶散ってますけどアレは大丈夫なの?」
視線の先にあるのはバチバチに戦闘して花畑が目に見えて荒野になっていく様子だ。碧ちゃんとテレネッツァさんとの戦いなわけだけど、相当に激しくやり合っている。
私達の間で行う模擬戦でもあそこまで激しくやり合うのは稀だ。お互いのと何より周囲の安全への配慮というのはあるけど、何より模擬戦で殺意を出したら本当に人死にが出るからね。
でもあれは殺意を剥き出しだ。特にテレネッツァさんは容赦が無い。普段優しいテレネッツァさんとはとても思えないくらいには恐ろしさを感じる。
「形どっているだけでああなっても壊れて無くなるわけじゃ無いから安心して良いわ。それにしても凄いわねぇ。私には何をしてるのかさっぱりだわ。真白はわかるの?」
「一応。あ、次は多分蹴り飛ばすと思う」
そう言った瞬間、碧ちゃんがテレネッツァさんに蹴り飛ばされて軽く10mくらい後方に下がる。
次に来るのは魔法の追撃。しかも海属性魔法特有の全方位からの隙間の一切ない面攻撃。
あれをぶち破るには一点突破で魔法の壁を突き抜けるか、同じ規模の魔法をぶつけて相殺かの二択だ。
下手に防御したらその場で圧殺されるうえに本命の攻撃まで飛んでくる。足を止めたら終わりね。
予想通り、碧ちゃんは一点突破の方法で抜け出すとぐるぐると回りながら魔法具に大量の水を纏わせて行く。
凄いのはテレネッツァさんの魔法までそれで巻き込んでいったこと。同じ海属性とは言え、他人の魔法を巻き込んでこちらの攻撃に転用するとは。
「なんだか嬉しそうね。あんなに大変そうなのに」
「自分達のリーダーが復活していくのを見ているのはなんだかワクワクするの」
碧ちゃんは勝負勘を間違いなく取り戻している。いや、むしろその凄みを増している。
我らがリーダー、『激流の魔法少女 アズール』は腐り落ちていなかった。それがこの目で見れることが嬉しくないわけがない。