花園へ
「おーおー、派手にやってるなぁ」
別れた碧ちゃんとテレネッツァさんがドンパチ始めたのがここからでもわかるくらいには派手にやり合っている。
花園が現実じゃないから別に怒ったりとかはしないけど、綺麗な花畑の上でドンパチやっている絵面は中々衝撃的だ。
草花が好きな人が見たら卒倒するんじゃないだろうか。
「テレネッツァも大概荒っぽいのよねぇ。でもまぁ、碧ちゃんとは相性が良いわよね」
「2人とも肉体言語で会話するタイプでしょ? だったら大丈夫。碧ちゃん、そういうの読み取るのは全然イケるし」
そもそもあの2人はよく似てるし、そういうつもりで碧ちゃんもここに来ている訳だから何の問題もない。
むしろ既定路線ってヤツだ。こっちはこっちでやることをやらないとね。
「こちらはこちらで話をしましょうか」
「そだね。何処からしようか?」
「積もる話、というか本当なら真白には関係の無い話になるハズだったから、私も何処から話せばいいのか悩んじゃうわね。妖精やその王族たちの間では当たり前だったりする話からしなきゃいけないだろうし」
「ま、小難しい話は慣れてるからさ。あっちも時間かかりそうだしさ」
積もり積もった小難しい話はどうやったって時間がかかる。かいつまもうにもこっちの話はあっちに、あっちの話はそっちに関りがあるから結局全部叩き込んだ方が早くなるのだ。
何度だって言うけど、小難しい話って言うのはいつだってそうだ。端的に話すと結局話が伸びていくし、あっちこっちに話が飛んで理解しにくい。とにかく、小難しい話は遠回りが出来ない。
問題は話が積もり過ぎて何処から切り崩していくのが良いのか分からないってことだ。
「それじゃ、まず妖精とか王族についての資料とかウチに残ってる?」
「んー、無いわけじゃ無いけど、実はお母さん亡国のお姫様だったのよ~。おほほほ、的なことしか書いてないわね。ほら、昔に書いたから魔力が人間界に来るなんて思ってないもの。妖精とか魔力とか、そういうのは誤魔化してあるのよね」
「まぁ、そうだよねぇ」
「そもそも、書いたあとに何処にしまい込んだのか、ぜーんぜん覚えてないの♪」
ずるっとズッコケそうになる。そうだ、そういえばこういう人だった。どっちかと言うと私と同じで片付けが出来ないタイプだった。
それにしたって子供の私に伝えるためのモノを何処かに無くすって、そんな調子で公務とかは大丈夫だったのか不安になる。
仕えていた人達は書類関係には常にピリピリと緊張感をもって仕事をしていたんじゃないかな。
私は書類は無くさない。単純に書類と資料を元にあったところに戻さないからうず高く積み上がっているだけだ。
自分がどこに何を置いたのかも大体覚えているから、物を無くすって言うのもほぼ無い。
「別に当時はわざわざ伝えなくてもいい話だったしね。一応、用意しとく? みたいに書いたけど、書いてるうちにやっぱり要らないんじゃないかって思いだしたらもう、ね?」
「ね? じゃないけど。まぁ、こうなるなんて誰も予想出来なかったって話はいつもするし、こうやって会えるから別に良いんだけどさ」
ぺろっと舌を出して茶目っ気感だしてますけど、一応人間換算で40代のオカンがその顔してもねって心の中で思ったら笑顔で凄まれたので何も無かったことにしておく。
まだ何も口に出していませんのでノーカンですよ、お母さま。
「ごほんっ、じゃあとりあえず妖精の王って言うのがなんなのか、っていう話からしていきましょうかね」
「よろしくお願いします」
咳払いと共に雰囲気をリセットして、いよいよ本題に入る。まずは妖精の王というのがなんなのか、と言う話かららしい。
私が知るのは二柱の神から加護を受けた初代妖精の王とそれらと共に戦った各種族の戦士たちが『獣の王』を追い返し、その後に初代妖精の王の子供たちに分割されるように三大国が建国された、ってことくらいか。
本当に最低限の情報、と言って良いだろう。その後の平和な妖精界ではひたすらに昔に起きたことを伝承していくのが王族の責務だったんだろうなってことは予想がつく。




