花園へ
墨亜と話しをした次の日、私は碧ちゃんをブローディア城の自室に招いていた。
「よお、なんか久しぶりだな」
「同じ場所にいるのに色々あってしばらく顔を合わせてなかったもんね。身体の調子はどう?」
「おかげさまで問題ねぇ。世話かけたな」
軽い挨拶を交わして、部屋のソファーに向かい合って腰かける。今回の集まりは碧ちゃんのお願いと、私自身の確認のためだ。
碧ちゃんはサフィーリアさんのお姉さんであり『優しさ』のメモリーの中にいるテレネッツァさんに会うため。
私は妖精界の王族と『繋がりの力』についてお母さんに聞くため。
決めていたルールを破ることにはなる。生きている私達と既に肉体は死んでしまい、魂だけになったメモリーの中に保管されている人達とは接触しないというルール。
死者は生者に干渉するべきではないし、生者は死者に安易に助けを求めてはならない。
ようは当たり前に生きていると絶対に出来ないことをしない方がいい。倫理とか道徳の観念から来たルールだ。
生きている側は死んでしまった人を頼ってしまうし、死んでしまった側は今を生きる人に縋ってしまうかも知れないから。
相互依存ほど恐ろしい関係性は無い。最初は健全でも、いずれ必ず倫理観や常識が侵されていく。
相互依存とはそういうものだ。2人だけの歪な世界とルールは世の中の当たり前や村法意識をいとも簡単に破壊する。
「悪いな。お前に決めたルールを破らせるなんてよ」
「流石に必要なことになっちゃったからね。私もお母さんに聞きたいことがあるから、ちょうど良かったわ」
「そうか。ならよかった、はおかしいか。こうならないように努力して来たのに、結局無駄になっちまったってことだからな」
本当にね。私達がやろうとしていた牛歩戦術がそのまま通用していれば、ショルシエの倒し方をもっと時間をかけて調べて、確実にショルシエを倒す方法を確立させてから戦いに臨んでいた。
それが出来ていたら、私達が決めたこのルールを破ることも無かった。
今でも、できればしない方が良いという考えは変わらない。ただ、四の五の言っていられる状況では無くなってしまったのだ。
こういう手段に頼らなければいけなくなってしまった状況を作られてしまった時点で私達はかなり一方的な不利を強いられていると言って良い。
「真白様、碧様、準備が整いました」
「ありがとう、美弥子さん」
「わざわざベッド用意しなくたってソファーでウチは良いんだぜ?」
「ダメに決まってるでしょ」
相変わらずズボラな性格なんだから。『繋がりの力』を使って花園に行く間、私達の生身の身体は無防備になる。
寝ているようなものだ。ソファーなんかで寝たら身体中バキバキになる。身体が資本の私達魔法少女がそんなことをするのはナンセンスだ。
そういうことになるならベッドの方が良い。少なくとも私は嫌よ。起きたら背中痛いのなんて昔を思い出すみたいなの。
「机で寝る人が何か言ってますね」
「意図して寝てるわけじゃないわ」
「そっちの方が問題じゃねぇか?」
作業して気が付いたら意識が飛んでただけだ。寝ようと思って机で寝ていたわけじゃないわよ。
それに、いつもそうやってるわけじゃないし。
「そうなるまで仕事してる方が明らかヤバいだろ。めんどくさがってるんじゃなくて完全にオーバーワークじゃねえか」
「そっちの方が身体に悪いですよね?」
アーキコエナイキコエナイ。
2人の指摘を無視して、ベッドに寝転がる。いつも通りふかふかだ。油断するとこのまま寝そうになるけど、今回は寝ることが目的じゃないので我慢だ。
「ったく、やっぱパッシオがいた方が良いな」
「えぇ、最近は私の言うことを聞かないことも多くなってまいりまして。困ったものです」
好き放題言われてるけど、無視無視。甘んじて受けるってことでここは誤魔化しておこう。
碧ちゃんがベッドに横になるのを待って、花園へ行く準備をする。『繋がりの力』を使うだけだけどね。私にとっては割といつもの作業に近い。
「準備出来たぜ」
碧ちゃんのOKも出たところで、私は『繋がりの力』を自分と碧ちゃんに使って花園へと向かった。