星の道導
【形ばかりの戦争、とは言え不測の事態には備える必要があるのが頭の痛いところね。そこのところを関係各所と調整したり、予想できることの対抗手段を急ピッチで用意しているわ】
「また色んな人達が火の車になってそうだね……」
【世界の危機に比べれば、個人のオーバーワークなんて軽いものよ。無事に終わったら全員に特別報酬はたんまり出すし】
真白お姉ちゃんの急ピッチは本当に急ピッチというか、火の車あるいは無理難題に近い。直接話をされている人達はそれはそれは凄まじい仕事量を熟すことになっている。
もうこれは確定事項というか、分かり切っている話だ。ただ、それに嫌な顔をする人はほとんどいない。
何故なら、真白お姉ちゃんが直接誰かにお願いするような話は本当に必要なことで、絶対に信頼できる人達にしかしないし、なにより世界の危機に直接関わる仕事に文句なんて言っていたらそいつはただのバカだ。
「パッシオがいなくて大丈夫なの?」
【大丈夫なわけないでしょ。任せてた仕事を色んな人に割り振ってなんとか回してる。文句は言わないけど、小言の1つは言いたい気分だわ】
それは文句っていうんじゃないだろうか。なんてことは口にせずに飲み込んでおく。一言突っ込んだせいで十でも百でも愚痴がこぼれ出てきそうだし。
でもまぁ、そのくらいの事は言えるみたいで良かった。前にパッシオと別れた時はもうみてられないくらいだったしさ。
今回はパッシオにはパッシオの理屈があるし、今生の別れでもない。ショルシエを倒せば、また妖精達はこの世界で当たり前に生活出来るようになる。
分かりやすい目標。とびきり難しいけど、無いよりあった方が良いに決まってる。
「どういう作戦の予定なの?」
【まだまだ話せるような段階じゃないけど、少数精鋭で直接敵の本陣に殴り込みをかける形にはなるでしょうね】
まぁ、そうなるよね。戦争は見せかけで敵の本陣に直接奇襲を仕掛ける。鉄板だけど確実で、上手く決まれば大ダメージは絶対だ。
代わりに、負けた時はこっちの全滅だけどね。ハイリスクハイリターンってやつ。
切れる手札が制限されてしまった以上はこういうやり方を取るしかない。本当だったらもっと確実性の高い手段を使いたかったけど、ショルシエに主導権を握られている限りはそれは出来ない。
「本陣っていうのは帝国の王城で良いの?」
【そうなるわね。短期決戦よ。恐らく、あのショルシエの事だから戦争の場所に直接現れることは無いわ。あくまで、自分は安全なところから戦場を観察するつもり。そして、周囲は主力で防衛を固めて来るハズ】
「それを撃破して、ショルシエ本人が戦わなきゃいけない状況を作る。って感じ?」
【大体ね。主力と主力のぶつかり合いになるのは確実。出し惜しみは出来ないでしょうし、問題は誰に誰をぶつけるか、とかそういうのになるでしょうね】
見せかけの戦争のその場に送るのは最低保証の戦力で、帝国王城に直接乗り込む人員が主戦力。
ショルシエを防衛しているだろう強敵を各個撃破、あるいは足止めしてショルシエ自身との戦闘を始めて時間を稼ぎ、最後は敵を撃破した主力たちが集合してショルシエを袋叩きにする。
理想的な形はそういう感じかな。もちろん、そんな理想的な形になる可能性の方が低い。場合によっては全滅もあり得る。
突入するメンバーの選定。突入タイミングと方法とか、考えることは山ほどある。短い時間の間に用意しておきたい装備とかもあるだろうし、まさに現場は急ピッチで準備を推し進めている。
全ての準備が万全の状態になる確証も無い。まさに博打のような作戦にどうしてもなってしまうけど、だからこそ最善を尽くす。
真白お姉ちゃんの、いや、私達の辞書に諦める文字なんて無いんだから。
「私はいつも通り狙撃手、かな」
【基本的にはそうね。超超遠距離からの狙撃があるって圧力が有るのと無いのでは全然違うしね】
私の役割はいつも通り。ショルシエすら射程に捕らえられない超遠距離からの強力な狙撃。
それが有ることをショルシエに意識させること自体がプレッシャーだ。隙を見せれば、必殺の弾丸が飛んでくるというのは恐ろしい以外に何もない。
例えショルシエが膨大な魔力を振りかざして、並の魔法は寄せ付けないんだとしてもそれを四六時中常に維持できるわけがない。
戦いの中で魔力の揺らぎがあれば容赦なくぶち抜いて見せる。未来視だってある。その時が来れば、確実に仕留める。それが狙撃手としての私の仕事だ。
【ふふっ、頼むわよ。『切り札』さん】
「……!! うん、任せて」
『切り札』と評価されて背筋が伸びる。それだけ期待されていることを胸に刻んで、私は真白お姉ちゃんとの通話を終わらせた。