満ち欠けた日常
ブラッシングをしながら次の話を待っていると、そのうちブラッシングに満足したのか、起き上がって体をぶるぶると震わせる。
やたらとご満悦そうだ。まぁ、ブラシもものすごく良いやつだし、やり方もバッチリ教えてもらったので、パッシオとしても自前の毛づくろいよりは良いのだろう。
私だって、美弥子さんに髪を梳いてもらうのは好きだし。
「さて、魔法少女にはなれない女性でも、無属性かつ少量の魔力を持っていることは分かった?」
「うん。で、それを集めて回っていると」
おおよそ、そういうことなのだろう。多分無属性の魔力を狙って集めているのは、パッシオ自身が火属性だからだ。
火属性の隠れ魔法少女を探し出して接触する手間より、魔法少女になれない圧倒的多数から、属性の無い魔力を集めて、自分の物として変換した方が効率が良いんだろう。
「まぁ、そういうこと。もちろん奴らみたいに魔法少女としての力そのものまで引っこ抜いたりしてる訳じゃないよ。体調にも考慮しているし、無理の無い範囲内には収めているつもり」
「方法は?」
「素肌に触れていれば、ごく少量って感じ」
「ふーん?」
そこまで聞いて、私は一応の納得はする。確かに学校に行けば、女性しかいないし、その大半は魔法少女になれない一般の人たちばかり。
パッシオの見た目だけの愛くるしい姿で媚を売れば、大変女性受けは良いだろう。
女性受けが良ければ、撫でたり、抱っこしたりなど様々なスキンシップがあるはず。その間にごく少量とは言え魔力を集められるなら、確かに非常に効率的な集め方だろう。
ただし、だ。
「それ、私から魔力貰えば良いだけの話じゃないの?」
「……」
身近に、私という無属性魔法少女という。特大の魔力タンクがありながら、わざわざ他の女性とのスキンシップに興じる理由は、無いよね?
そう問い詰めた瞬間、パッシオは露骨に視線を逸らす。オイ、絶対やましい何かあるだろお前。
「い、いやぁ、真白の手を煩わせるのも悪いかなと思って……」
「別に大したことじゃないと思うけど。その日のうちに自然回復する範囲内なら、全然良いじゃない。なんで、わざわざコソコソやってるの?」
「こ、コソコソしてたわけじゃないよ?驚かせようと思ってさ……」
「確かにサプライズだけど、その魔力収集方法まで隠す必要性はないわよね?」
「え、えーと……」
いよいよ言い訳も思い浮かばなくなってきたパッシオを両手で抱え上げて、無理矢理視線を合わせる。
合わせようとすればサッと逸らすけど、その度に合わせてやる。
オイコラ、こっちの目を見ろ。
「言い訳を考えるなこのスケベ妖精。どうせ、綺麗で可愛い女の人に触ってもらえる建前が出来たから楽しんでたんでしょう?」
「そ、それだけじゃないよ?」
「それだけ、ってことは楽しんでたことは認めるのね?」
「あっ!!ううーんと、ちょっと待って考えさせて」
「パッシオ~~~っ!!!!」
あっ、じゃないわこのバカタレ。言い訳を考えさせるわけ無いでしょうが。
人に隠れてキャッキャウフフとは良い度胸じゃない。さぞや良い思いをしながらいただく魔力は美味しかったでしょうね。
睨む私にどんどん身体を縮こまらせていくパッシオの様子ははたから見たらさぞやシュールなことだろう。
ただし、許すつもりはない。なんでかって?……なんでだろ?
「そ、そう!!妖精にとってはと~っても重要なことがあってね!!それがどうかと思って最初は始めたんだよ!!」
「へぇ~、じゃあ早速そのとっても重要なこととやらを説明してもらおうじゃない」
妖精的観点で重要なことから最初は私に頼まなかったらしいが、果たしてどうだか。
このスケベ妖精の事だから、最初っから良い思いをするための可能性も拭えない。
さて、どんな言い訳が飛び出るのかと待ち構えていると。
「妖精界ではね、双方の合意の上での魔力の譲渡や交換はだね……」
「交換は?」
「こ、婚約とか子供を作る行為なんだよね……」
思わずそのままギュッと締め上げた。悪意は無かった、ごめん。




