星の道導
「成程、一理はありますね」
紫お姉ちゃんに思い至ったことを伝えると顎に手を当てながら私の予想に一定の理解を示してくれた。
「だから急いでお姉ちゃん達に……」
「待ってください。ことを大きくするにはまず真白さんにこのことをまず聞いてみてからです。事を大きくする前に本人に確認を取ってみてからでも十分です」
「む……」
急がば回れを求められて、浮足立っていた私は一旦落ち着いて深呼吸をする。そうだ、私が思い至ったことはあくまで予想であって確定している情報じゃない。
現時点では私の想像の範疇を出ない。それをおおごとにして結局そんなことはありませんでしたが一番良くない。
まずは真白お姉ちゃん本人にありそうかを確認してみるところからだ。
「あ、真白さん、お疲れ様です」
【お疲れ様。急に電話なんてどうしたの?】
「いえ、実は墨亜さんが真白さんの埼玉のご実家に王族に関わる資料などが残ってるんじゃないかって」
【あー、確かに。お父さんの書斎は色々探したけど、お母さんの部屋とか両親の寝室には全然入ってないし】
早速、真白お姉ちゃんに紫お姉ちゃんが電話をしてスピーカーモードで話をすると、真白お姉ちゃんもその可能性があるかも知れないと唸っているのが聞こえてくる。
年に何回か帰ってる真白お姉ちゃんだけど、こんなことになるなんて思ってないし、メモリーとかに関する資料はお父さんの真司さんから託されていたしで、わざわざ探すようなことは無かったんだと思う。
【あくまで可能性、だけどワンチャンスはあるかもね。それはそれで紫ちゃん達には公国の文献を調査してもらうけど】
「勿論です。国ごとに伝わっている情報が違う可能性がありますし、個人で残せる量と国の歴史そのものでは得られる情報の量に雲泥の差がありますから」
プリムラさん個人がしたためられる情報の量と、国の歴史に等しい公国の書庫じゃ、情報の量が違うのは確実。
質は女王本人が残したモノだって考えるとトントンかも知れないけどね。
それにしたって得られる情報は多い方が良いだろうし、直接的な情報じゃなくても『繋がりの力』を深く理解するのに近しい情報は知ってたほうがいいしさ。
【うんうん、わかった。とりあえず、私の実家に何か残ってるかもっていうのは完全に盲点だったからありがとね、墨亜】
「うん。お姉ちゃんは一回人間界に戻る?」
【んー】
人間界に一旦戻るのかを聞いてみると真白お姉ちゃんはうーんと唸っていて戻るかどうかは悩んでるみたいだ。
こういうのには即断即決即行動が基本的な真白お姉ちゃんには珍しい反応。
どうしたんだろう。何か悩ましい事情でもあるのかな。
【まぁ、その、ミルディース王国の王様になろうかな、って思ってたからさ……】
「「「「え?」」」」
とんでもない発言を聞いた気がしてその場にいた全員の目が点になる。
え、ミルディース王国の、王様? 真白お姉ちゃんが?
いや、何もおかしくはないんだけどさ。それこそプリムラさんはまさにミルディース王国の女王様で、真白お姉ちゃんはその娘。
つまり生粋のお姫様。普通なら次の王様になるのは真白お姉ちゃんだ。
「本気、ですか……?」
【うん、本気。私がミルディース王国の女王になれば、色んなことが解決できるから】
恐る恐る聞いた紫お姉ちゃんの質問に真白お姉ちゃんはYESで返す。
聞き間違いじゃなかった。真白お姉ちゃんは本気だ。
嘘なんてバカなこと言わないし、適当な気持ちでそんな大きなことを決めるなんてしない。
真白お姉ちゃんは本気でミルディース王国の女王様になるつもりだ。
「お姉ちゃん、でもそれは……!!」
【墨亜、今は私の事情を考えてる余裕なんてないんだよ】
「……っ!!」
でもそれは裏返せば真白お姉ちゃんが人間界でやりたかったことを諦めるってことにとなる。
今までの努力を捨てることと同じだ。真白お姉ちゃんの血の滲むような努力をここで終わらせて良いのか。
決めるのはお姉ちゃんだ。それでも、間近で見て来たこそ物凄く辛かった。




