星の道導
「スタンはさ、お兄さんに直接聞ける?」
「何を?」
「なんでこんなことをしてるのか、って」
スタンのお兄さん、帝国の帝王レクスの暴挙は見聞きしている通りだ。ショルシエと結託して、旧王国を滅ぼし、公国と戦争状態になり、ショルシエが世界を滅茶苦茶にしようとしているのに協力している。
お兄さんがそんなことをする理由がイマイチわからないんだよね。だって、妖精界で戦争をしてまで領土争いをする理由があまりない。
大昔は種族間で争ってばかりだったっていう妖精界は『獣の王』っていう共通の敵が現れたことで一致団結した。
そして二柱の神とそれに見初められた初代『妖精の王』。その仲間達と一緒に『獣の王』を追い返した。
これが事実の歴史なのは私に未来視の力を開眼させた古代の英雄『アステラ』の存在と発言によってわかっている。
その後、妖精界は初代『妖精の王』の3人の子供たちにそれぞれ分割されるように国を分けたんだけど、つまりその間に部族間の抗争とか領土の争いは無い。
帝国、王国、公国。それぞれ一人の統治者からその子孫にほぼ平等に三分割されたわけで、領土を争った歴史はその随分前に失われてるらしい。
実際、妖精界の種族は多少の差はあれど基本的に仲が良い。全然別の種族が同じ街に当たり前のように過ごしているし、それが可能なように街並みが設計されている。
それぞれの種族ごとに里があるけど、それが種族間で襲撃し合うこともない。それどころか、里同士や街の間で交易が活発だ。
なんで、わざわざ兄弟国を攻撃する必要があったのか。考えこめばこむほどわからない。どんなにそれっぽい理由を考えても、そんなことをして何の意味があるのか。
「聞くさ。むしろ聞かなきゃいけない。これまでそれっぽいことを何回か聞いてきたけど、適当にはぐらかされて来た。それを敵対っていう明確な否を突き付けて、嫌でも聞き出す義務が僕にはあるんだ」
「王族だから?」
「兄弟だから、かな。兄弟が間違いを指摘しなかったら、誰が間違いを指摘するのさ。スミアだって、そこでもやもやしてるんでしょ?」
「……そうだよね」
王族としてお兄さんを止めるというよりは、弟して兄を止めるというスタン。等身大の考え、王族だとかそんな小難しいことを抜きにして、兄と弟のシンプルな関係でまずは考えているみたい。
そこに王族としてのアレコレが不随して来る、って感じかな。厄介だよね、立場があるっていうのもさ。
「スミアは聞くの? 戦争とかについて僕ら妖精界側の人達より真白さんの方がずっと詳しいって聞いたけど」
「そうだね。真白お姉ちゃんは私達の中で一番戦争の悲惨さを知ってる。なのにお姉ちゃんが戦争をする側に回るのは、おかしいんじゃないかって思ってるところはあるよ」
「ダブスタってヤツね」
黙って私は頷く。戦争を否定して来た真白お姉ちゃんが戦争をする側に回ろうとしていることに私はずっと疑問を抱いている。
だって、言ってることとやってることが違うじゃない。それはおかしいんじゃないかって問い質したい気持ちはある。
ただ、しなきゃいけない戦いなのもわかってる。何より、私自身の戦い方が狙撃っていう戦争向きの戦い方だ。
今の私に戦う以上のことが出来る自信は全く無い。
ダブルスタンダードな発言は信用を失うし、自分の行動の一貫性も失うから良いことなんてほとんどない。
二枚舌、三枚舌なんてそれこそ袋叩きに合う理由になるし。
真白お姉ちゃんには真白お姉ちゃんなりの考え方があるのは分かってる。何かを曲げてでもやらなければならないことがあるのもわかってる。
理想ばかりじゃ生きていけない。上手くバランスをとって行った方が上手に生きていけるのも何となくわかる。
それでも、真白お姉ちゃんにそこを曲げて欲しくないと思う私も確実にいた。
 




