星の道導
私に戦争の悲惨さとしてはいけない理由を教え続けてくれた真白お姉ちゃんが、戦争をする側に回る。
これも少し前に未来視で見ていたな、ということを思い出してからその疑念というか、真白お姉ちゃんに対する不信感に近いモノが湧いているところはある。
「この戦争って、絶対にしなきゃいけない戦争なのかな」
「……」
ここから先、帝国 VS 公国と旧王国側のレジスタンス、そして私達魔法少女の連合が真っ正面からぶつかり合う戦いが、必ず起こる。
死者は避けられない。しかも、今度は私達が攻め入る側に回らなきゃいけないというのもある。
妖精の暴走事件以降、公国内の空気は物凄くピリついている。
領主のリアンシさんがなんとかまとめ上げているけど、いつ暴動が起きてもおかしくない。
妖精とそれ以外の種族の間に開いてしまった溝はそのまま不信感、恐怖心によって時間が経てば経つほど取り返しがつかないことになる。
内部分裂して自滅するか、攻め込んでショルシエを討つか。
私達にはその2つの道しか残っていない。事実上の選択肢は当然1つ。
帝国に攻め入って、短時間でショルシエを倒す。
今度こそ、確実にだ。
「しなきゃ、どうにもならないのはわかってるよ。ショルシエを倒さなきゃ、この戦争は絶対に終わらない。でも、戦争をしたらそれはそれで終わらない火種が生まれちゃう」
仮に私達がショルシエを倒して、妖精の暴走の心配も無くなって、起こっていた問題ごとの大体が落ち着いたとしても、戦争をしたことによる憎しみの連鎖は絶対に残る。
戦死者や被害を受けない戦争なんて無い。絶対に誰かが理不尽な目にあってしまう。
その小さな憎しみが寄り集まってまた大きな戦争の火種はなる。
人間界ではそうやって何度も争いが起きて来た。
人間の歴史は戦争の歴史でもあるけど、争いなんて無いなら無い方がいい。
争いで生まれる不幸なんて、無い方がいいんだ。
「ショルシエは、僕らがそういうことで悩んでいるサマすら楽しんでいるんだろうね」
「性格悪過ぎ。でも、多分そうだよね」
『災厄の魔女』ショルシエ。その名前の通り、災いを撒き散らすだけ撒き散らして、そうやって起きた地獄を高みの見物でせせら笑う。
3年前に戦った偽者もそういう奴だった。たぶん、アレはショルシエにとって人間界に潜り込ませたコピー端末か何かだったんだと思ってる。
ショルシエも万能じゃない。何でもかんでも思い通りになるわけもなく、集中しなきゃいけないことと、ある程度放っておいてOKな事があるハズ。
あの時のショルシエにとって妖精界での戦略の方が大事で、人間界はオマケだった。
だから偽者の端末でコソコソしてたんじゃないかなって。
私の想像だけどね。そんなに悪い線では無いと思ってる。少なくとも的外れではない。
ショルシエという存在は最終的に力押ししてくる。膨大な魔力にモノを言わせて、ね。
それまでは手の内を決して見せない。自分の手を極力汚さず、他者を使って目的を進めて行く。
そして、自分の目的が目の前に来た時に一気に自分の手で物事を押し進める。
最後の詰めだけは自分の手柄にする。そういう奴。
決して知能犯とか、頭が良いわけじゃない。とにかく、狡賢い、狐みたいな奴。
それが私のショルシエに対する印象。
だから、私達が悩み、苦しんでいるサマも高みの見物で嘲笑っているわけだ。
全ては自分の手のひらの上。どんなに足掻いても最後はどうせ自分がめちゃくちゃに破壊出来るのだから。
「それをさせない為に仕掛ける戦いでもある。真白さん達が無策だとは思わないし、僕も出来る限り情報を集めるよ」
「うん。お願い」
唯一と言っていい打開策は妖精の王族が持つ『繋がりの力』。その本質と正体さえ分かれば、逆転の一手が見えてくる。




