巌のようにあつく、石のようにかたく
誰かとの繋がりとはこれほどに大事なものだったのか。それを失うというのはこんなにも苦しく、悲しいものなのか。
俺が知っているつもりになっていた人と人の繋がり、関係性、絆。それが如何に尊く、脆く、それでいて強く、決して消えることのないものだという事を、初めて失った事でちゃんと向き合い、自分の中で明確に認知できたように思う。
それはきっと思い上がりも甚だしいのだろうが、少なくとも前までよりは明瞭に認識できていると思う。
「この痛みを、アイツは幾つも知っているんだな」
「そうだよ。君の姉、真白は君が今感じている痛みを何度も受けて来た。だから、あの子はそこに拘るんだ。あの子は失う痛みを誰よりも知っている」
真白はその痛みを俺達の誰よりも知っている。母を失い、幾人もの患者の死を目にし、父までもを失った。
いったい、アイツは何人の死を目の当たりにして来たんだろうか。
たった一人を失っただけでこれだけの無力感と向き合わなければならないのに、アイツは家族も失い、戦地や医療の現場で救えずに目の前で散っていった命を幾つ目にして来たのか。
俺には想像もつかない数だろう。下手をすれば何百と見届けて来たに違いない。そりゃあ、心のひとつやふたつも折れる。
むしろなんでそれだけで済んでいるんだ。それが真白の一番の強さなんだろう。俺にはきっと出来ない事だ。
アイツは折れたら折れた分だけ強くなって帰って来る。
そんな印象があるくらい、折れても立ち直って来る。その強さと、その根底にある物を改めて認識して、その凄みを理解することも出来た。
「だから、アイツは自分の理想を絶対に曲げない」
「そうだね。失う悲しさと辛さを誰よりも知っている。それを誰かが味わってしまうのがあの子は誰よりも気に食わない」
そこが真白っぽいよね、と玄太郎さんが笑う。そう、アイツは何が面白いってそこで誰かがそういう目に遭ってしまうことが同じように辛く悲しいから助けるとかじゃない。
アイツはそれが気に食わない。目の前のそれを救えない自分の不甲斐なさにキレる。
自分のことをエゴイストと自称するだけのことはある。まさに正真正銘のエゴイズム。アイツは自分が納得するために戦い、守る。
アイツの夢は誰かの為の夢じゃない。自分が最も納得できる理想のカタチがアイツの夢だ。
一歩間違えれば悪の大魔王だろう? そんなヤツが俺達の中心にいて、巨悪と戦っているんだから笑っちまうよな。
正義の敵は、もう一つの正義。なんて言葉をよく聞くが、真白のやり方はまさにそれだろう。アイツは、自分の理想のためになら他人の正義を潰す。
そのやり方で暴力装置が本当の最終手段ってだけだ。
「何も真白のようにならなくていいからね?」
「そりゃそうだ。あんなバケモノになれる気はしない。だが、アイツが強い理由が嫌でもよく分かった」
失った痛みを乗り越えた数だけ、人は強くなる。まるでJ-POPの歌詞のようだが、それは事実を含んでいる。
それを地で行く天才を、俺は間近で見ているんだから。
参考にはならんがな。同じことをやったらこっちが潰れる。
「だが、まぁ乗り越えられないものじゃないというのがわかったことはデカいな」
「1人だったら抜け出せそうになかった?」
「どうだろうな。だが、時間は掛かっていたと思う」
悪戯っぽく笑う愛菜を敢えて正面から受け止めることでアイツの思惑を挫かせる。大方、からかいのネタにでもしようと思ったんだろうが、そうは行くか。
いつでも手玉に乗せられると思うなよ。
「それがわかってるなら良いわ。私達が来てくれたことをよーーく噛み締めておくのよ」
「調子に乗るな」
本当に自分の都合の良いように受け取りやがって、腹が立つ。こういうのが上手く生きていくんだろうなと思わされるのがなおさらだ。