巌のようにあつく、石のようにかたく
「君達は相変わらず仲が良いね」
「これが仲良いのか?」
たんこぶ出来そうなレベルで強打されて仲が良いのならそれは多分仲が良いんじゃなくて家庭内暴力で洗脳されてる方だろ。
仲が悪いとは言わないがな。
「なんだかんだお互い気にかけてるだろ。愛菜君も照れ隠しだしね」
「そうなのか?」
「本人に聞いて答えるわけないでしょ」
ふーん? よく分からんな。こういうところはやっぱり遅れているというか、成長出来ていない点だな。昔に比べれば全然マシになったと思うが。
俺は造られた命だからな。望まれて生まれたわけでもなければ、産みの親がいるわけでもない。
寿命も一般的な人間とそう変わらないのか、もしかすると短命の可能性は十分あるわけだが、その辺は死ぬまで分からん。考えても無駄だから俺は考えないことにしている。
真白あたりはこそこそ動いてるっぽいがな。アイツも大概寿命問題があるだろ。軽く数百歳生きる可能性があるからな。人間界の法律では対処出来ないからそっちの方が問題だろと思う。
まぁそこ今はどうでも良い。とにかく俺は造られた命で、それっぽく言えばホムンクルスみたいなもんだ。
肉体は使い物になるようにいっちょ前に成長しているが、中身の方が伴っていない。知識の方はある程度詰め込めるが、感情やら感性はそれこそ普通なら3歳くらいからゆっくり形成していくものらしい。
それをすっ飛ばしているわけだから、基本的に俺はそういうのに疎い。漫画や小説の知識でそれっぽく行動しているだけだ。
だから学校の同級生とかからはロボットみたいなヤツと評価されていたりする。上手く対応している方だと思うぞ?
「真広も少し見ないうちに随分と感情豊かになったね。僕としては安心だよ」
「そう、か?」
「そうだよ。まだまだ不器用だけど、随分と感情と表情が出るようになって来た。育ての親として、これほど嬉しいことは無いよ」
本当に嬉しそうに顔を綻ばせる玄太郎さんを見るに本当にそうなんだろう。俺も多少は成長しているらしい。
真白も俺も、ついでに千草も墨亜もだが大概ひと癖ある性格しているからな。父親の玄太郎さんには苦労をかけるだろう。
忙しい中で色々時間を取ってくれているしな。朝飯と夕飯は出来るだけいるようにしているらしい。
国会議員になってる光さんが家に帰って来るのが難しくなっているってのもあるんだろう。
そんな光さんもかなりこまめに連絡してくれてるんだよな。他の皆も、口には出してないが親兄弟とはそれなりに連絡を取り合っているっぽいしな。
「泣くっていうのもやっぱりそういうことなのか?」
「筆頭だろうね。赤ん坊のコミュニケーションはまず泣くことからだ。真広が赤ん坊だとは思ってないけど、泣くっていうのは感情の発露として大事なことじゃないかな」
泣くとひとえに言っても色々ある。赤ん坊の泣くはどちらかと言えば危機状況や腹が減ったとか不快感を伝えるための手段で、悲しいから泣くって言うのは随分後になってからのような気もする。
が、それはそれとして感情をしっかりと自分で表現したり、相手に示したりするのはコミュニケーションとしてかなり高等だ。
それが全然出来なかった身として、悲しくて泣けたって言うのは確かに成長なのかもしれない。
感情をコントロールするのは難しいが、コントロール出来ないほど強い感情を抑圧してしまうのも精神的に負荷も大きそうだ。
人に迷惑をかけない程度に自分が感じていることを相手に伝えるという技術は難しくて出来る気がしないが、人はそうやって成長していくものなのだろうな。
「大切に思っているモノを失って、悲しむことは当たり前のことだ。その重要度が上がれば上がるほどその悲しみは大きくなる」
「逆を言えば、それだけガンテツのお爺さんとの関係を大事にしていた、って証拠ね」
「そう、だな。意識していたわけではないが、改めて考えれば考えるほど、俺はあの人の事を尊敬していたんだなと思う」
失ってから気付く大切さ。物語で良く見聞きするモノだが、こうして身に降りかかると本当にそういうことがあるんだなと実感する。
失ったことで、当たり前に思っていた何かが大事だったと再認識する。そんな皮肉めいたことは案外よくあることなんだろうな。




