青くて碧い
現場に到着するのに、そこまで時間は掛からない。つってもウチの脚じゃあ街の中心地から襲撃されている場所までは流石に10分はかかる。
クルボレレなら数分も掛からないんだろうけどな。流石にないものねだりってヤツだぜ。
「なんなのよもう!!」
「文句言う前に手を動かす!! 刺されたらタダじゃ済まないよ!!」
「ひ~~、キモいキモいキモい!!」
辿り着いた時、担当の魔法少女3人は陣形を崩さずに文句を垂れながら状況に対処していた。
上出来だ。想定してない相手にこんだけ出来れば十分だぜ、お前ら。
「伏せろ!!」
ウチの斧型の魔道具『ヴォルティチェ』を振るい、水属性の広範囲攻撃を行う。この手の数で押して来る敵には無差別の範囲攻撃ってのが鉄則だ。
特にウチみたいな弾幕じゃなく、壁を押し付けるみたいな戦い方をするタイプは逃げ道も無い。
「――!!」
後輩魔法少女達に襲い掛かっていたスズメバチ型の魔獣達を相当数巻き込んで薙ぎ払う。反応したのもそれなりにいるが、今の不意打ちは効いただろ。
「あ、アズール先輩!!」
「え、なんで?!」
「ボケッとすんな!! 状況報告!!」
「20分前から交戦開始。30匹ほどは私達で倒しましたけど、まだまだ数の全貌が掴めていません」
驚く前衛役の2人に対して、後衛が冷静に受け答えする。100匹相当の群れのうち、20分で30墜としてんなら充分。さっきのウチの攻撃でも30近くは墜としてるハズなんだが。
「数が減ってねぇな」
「巣が近い可能性があります。次から次へと増えて来ていて、減らしてもキリが無いです」
こんだけ倒したってのに数が減るどころか増えていってる感覚がある辺り、巣が相当に近いなこりゃ。
元々近いところのスズメバチが魔獣化したっぽいか? 流石にそこまで都合の悪い事態まで想定してられねぇしな。
魔獣化して一番近い生き物の人間に飛びついて来たってところか。
「応援呼べ。到着次第、巣ごと叩く」
「巣ごとですか?」
「ウチがやる。お前らは討ち漏らしを確実にやれ」
こうなったら巣ごと殲滅するしかねぇ。こいつらの厄介なところの1つに数が増えるスピードが早いことがある。
一刺しで致命傷の毒針、腕を嚙み千切ることも出来る強靭な顎。高い飛翔能力から来る起動性能に社会性。繁殖能力も高い。
蜂の魔獣がこっちに牙を剥いて来ると厄介なのはこういうところだ。普通は数匹が迷い込んで来るくらいなんだがな。
巣単位で狩りに来られるとこうも厄介になる。長丁場にさせると被害が広がる可能性も高い。
今日の内にケリを付ける。
「え、でも先輩の負担が……」
「バカ!! あたしらがいても邪魔になるだけでしょ!!」
ウチの心配をしてくれた心優しい1人がもう1人に頭を引っ叩かれる。何もそこまでしなくて良いけどな。
考えてくれるのは嬉しいぜ? ただ、実力に合わない行動はNGだ。言われたとおりに動いてもらう。
「応援が到着するまでは?」
「ウチらで止める。良いか、一匹も街に通すな」
「「「了解!!」」」
いい返事だ。気合入れろよ。次の世代の根性ってのを見せてみろ。
「行くぞ!! 着いて来い!!」
気合を入れさせるとしっかり腹から出て来る声が3つ聞こえてくる。良いね、この数見てビビらないあたり根性あるぜお前ら。
将来を期待できそうな後輩たちに思わず口角が上がるってもんだ。こいつらを訓練してる指導者側としてはどうしたって嬉しいもんだ。
「オラァッ!!」
飛び出したウチに着いて来るように跳躍した後輩の前衛2人。そいつらの位置取りを把握しながら、振り回すように『ヴォルティチェ』を振るう。
纏わせている水が『ヴォルティチェ』の軌道をなぞる様にしてスズメバチ型の魔獣を飲み込んでいく。
その間を高い飛行能力を駆使して潜り抜けて来る連中もいるが、そういうのは少数。後輩たちが確実に墜としていく。
増援が来るまで、そこまで時間はかからない。それまでは耐えだ。