青くて碧い
鼓と遊んでる成也とみなもを見ながら近くのベンチに腰かけて一息つく。きゃっきゃとはしゃぐ二人とそれをほどほどに追い回す。
楽しそうにしてるのはありがたいこった。楽しいに越したことはないし、昼間の内に体力を削っておかないと昼寝もしないし、何より夜に体力が有り余って寝やしねーからな。
「にしても元気なもんだぜ。疲れてんじゃなかったのか?」
ウチらの代わりに仕事を請け負っていた鼓は簡単に言えば体のいい抜け駆けだ。サボりとも言う。
来てもらってる手前、無理強いも出来ないしな。それに多少仕事のひとつやふたつしなくたって大体どうにかなるもんだ。
ただでさえ普段のウチらがいないの前提の業務になってるはずだしな。
応援に来てくれてる鼓に出来ることなんて魔法少女の面倒見るくらいだろうよ。それが一番大変だけどな。何せ人が多いし。
「目の前にある大事なものを守る、か……」
こうやって成也とみなもと遊んでるのが見つかっても、ウチがいるなら話が別だしな。何とでも言いようがある。
一応、ウチのことを考えて引っ張り出してくれた部分もあるしな。考え無しだったが。
そうやって目の前にある若干不思議な光景を見つつ、昨晩翔也さんに言われたことを改めて考え直す。
簡単に言えば、今まさに目の前にあるこの光景を守るってことだ。字面通り、額面通りってヤツだな。
翔也さんにとってはこの光景を守るのは難しいことだって言ってた。冷静になってみれば、諸星グループのトップに君臨する人とは言え、身体能力は一般的な成人男性だ。
やれることには当然限界はあるし、魔法少女のウチよりやれることは少ないよな。単純な力でも、取れる方法もまるで違う。
最も違うのは直接手を出せるかどうかってことだろうよ。
ウチは単純に力がある。目の前で起こった出来事をどうにか出来るパワーだ。
暴力的でこそあるけど、即効性が高くて素早い対処と解決が出来る。
翔也さんを含めた殆どの大人が持っているのは社会に対するパワーだ。
起きてしまったことに対してルールを変更したり、啓発することで今後似たようなことを起こさないようにするための力だ。
即効性は無いけど根本的な部分に近いところでの解決が出来るし、同じ轍を踏まないように出来るのはデカいメリットだよな。
どっちがどっち、ってのは正直無いと思う。どっちも間違いなく正義で必要なこと。
ウチからしたら、社会に強く働きかけられる力の方がよっぽど大事だと思うけどな。
将来のことを考えればそういう力はあった方がいいに越したことはない。
それに振り切った職業が政治家とかだよな。
「隣の芝はなんとやら、なのかねぇ」
出来ないこと、苦手なことを簡単にやってのける人が近くにいるとそれを羨ましく思って自分がちっぽけに見えるのはいつどんな時、人でも変わらないのかも知れねぇ。
あの翔也さんですら、ウチのことを羨ましいって言ったくらいだ。
出来ないことを出来る人を羨んで、ああだったらこうだったらって考えるのは人のサガなのかもな。
翔也さんが言いたかったのはきっとそういうことなんじゃねえかな。一晩経って、こうしてリラックス出来る環境になって改めて考えるとそう思う。
昨日は頭に血が上ってた。もしくは意固地になってた。自分はそうだって決めつけてて、お袋の言葉も翔也さんの言葉も突っぱねちまってたよな。
悪い事したなと思う。お袋達なりに色々ウチに伝えようとしてくれたのは間違いないのに頭ごなしに突っぱねてたんじゃ話になんねぇよなぁ。
「だからと言って、納得は出来てねぇけど」
それでも、自分が魔法少女を続けることには変わらず疑問がある。ウチは弱い。才能も無きゃ、目標も無い。
ウチが変わらなきゃ、未来はない。そして、ウチ自身がウチの事を信用出来ていない以上、これ以上伸ばしようもない。
完全などん詰まり。続けたいさ。本音を言えば続けたいに決まっている。ただ、その理想と現実にどうしようもない溝がある。




