青くて碧い
「のんちゃんだー!!」
「おっきいねー」
成也とみなもはアクリルガラスに顔をべったりとくっつけてノンに夢中だ。
ノンと会うのは初めてだが、テレビとかで見てるしウチからも話は聞いてる。
何よりノンは魔法少女と同じようにグッズ展開がされている。
ノンはデフォルメされたぬいぐるみが1番人気らしい。まさにマスコットだな。
「きゅるきゅるきゅー」
「悪いな。弟と妹が一緒にいるからそっちに行ってやれねーんだよ」
「ぐぎゅー」
ノンの方と言えば、1人だけ居残りをさせられて不満たらたらだったらしい。
久しぶりに会ったウチに構え構えとアクリルガラスの向こう側から文句と甘えを混ぜた声を出しているが、成也とみなもがいる前でそっちに行くと2人が大騒ぎしたうえでギャン泣きするだろうからなぁ。
だからって2人を連れて行くわけにもいかない。どんだけノンが頭が良くて人間に友好的な存在でも何かちょっとした事故が発生した時が悲惨だからな。
魔法少女はどうにかなるが、3歳児にノンの巨体はどうすることも出来ない。
ノンにはちと悪い事をしたな。あとでまた1人で来てやるか。
「ノンちゃんはなにしてたのー?」
「くきゅる?」
「おひるねー?」
「きゅるきゅる」
アクリルガラス越しでちっちゃいのとデッカいのが一生懸命お喋りを試みているわけだが、当然会話が成立することはない。
主にチビたちがノンの鳴き声と意思を理解するのは難しいだろうからな。ノンの方は大丈夫だろうけどな。
意思疎通ってそう考えると結構高等なテクっつーか、知能とか色々難しいことだよな。
お互いがお互いの言ってることが理解してなきゃいけない。それって案外レアケースだ。
種族が違えば当たり前に意思疎通は出来ないし、言葉が違うだけでアウトだしな。
身振り手振りのジェスチャーって手段もあるけど完璧じゃねぇしな。
ノンの鳴き声とかも何を伝えたいのかは何となくしかわからないしな。
どうも墨亜あたりはウチらよりもしっかり意思疎通が出来たるっぽいけどな。
この辺も魔法でどうにかなんねーもんかね。ノンと意思疎通出来たら色々便利だしおもろそうだよな。
つっても案外魔法も万能じゃねーからな。機械の方がこういうのは得意かもなぁ。
「なんや、珍しいお客さんが来とるやないの」
「ん? なんだ鼓かよ」
考え事をしてるとわざとらしく声を掛けて来た奴が出て来たから顔だけ確認してすぐ無視する。
「なんだ、とはえらい酷い言いようやなぁ。こちとらあんさんらの不在を預かるためにわざわざ大阪から来てるんやで?」
コイツは『音撃の魔法少女 鼓』。魔法少女協会の大阪支部で魔法少女をまとめ上げてる関西を代表する魔法少女だ。
ウチらが本部を空けている間、鼓に来てもらって本部の他の魔法少女達の面倒を見てもらってるわけだ。
わざわざ来てもらっている以上、あまり文句を言える立場でもないからこのくらいにしておくか。
「わーったわーった。ただし、ウチの可愛い弟と妹に変なこと吹き込むなよ」
「せんせん。んなことしたら総大将にぶん殴られてまうからな」
「調子の良いこと言いやがって……。あとその総大将っての止めろよ」
ただし、成也とみなもに変なことを言ったらしばく。姉として当然のことだし、鼓はそういうことをするヤツだからな。
冗談でもこの純粋無垢な時代に鼓みたいな適当なこと言う奴は毒だぜ。
それはそれとして鼓がウチを指して言う『総大将』ってあだ名は本当にやめて欲しいところだ。なんでウチが総大将なんだよ。
「そりゃ『激流の魔法少女 アズール』が一声かければ世界中の魔法少女が動くからやろ。間違いなく現役魔法少女の総大将はアンタやで」
「勘弁してくれ」
そりゃウチの一声じゃなくて会長の番長の鶴の一声で、だろ? ウチがそれを代弁することもあるし完全な勘違いだぜ。
そう返すと鼓の方はわざとらしく肩を竦めて見せる。ウチの答えに不満らしいが、それが事実だぞ。
「相変わらず謙遜ばっかやなぁ。自分、損するで?」
「損得勘定でこの仕事してねぇよ」
「せやから下が付いて来るんやないの。あんさんらの中で後輩から一番慕われてるのは間違いなくアンタやで」
「そりゃどうも」
よく口が回るもんだぜ。煽てたってなんも出て来ねぇってーの。




