青くて碧い
「畜生、あの親ども全部ウチに押し付けやがった……」
クソ親父に度数の高い酒を飲まされてひっくり返ってからのそのそと起床すると、ダイニングテーブルの上に置いてあったメモを見て、頭を抱える。
要約すれば、デートして来るから成也とみなもの面倒よろしくってことだ。流石に丸投げってわけでもなく、乳母さんを雇ってるから完全に2人を放置してるわけじゃないし、未成年で長女のウチに完全に押し付けてるわけじゃない。
けどまぁ、帰って来たのを良いことにデート行くとは良いご身分だな畜生め。
「ねーね、おはよー」
「おきたー」
「おはよ。朝ごはんは食ったのか?」
「「たべたー」」
どうやら朝飯は食ったあとで二度寝してたらしい。まぁ世間的に的には土曜で休みだしな。寝る子は育つっても言うし、二度寝くらいはしたって良いだろ。
そもそも10時過ぎまで爆睡してたウチが偉そうなこと言えた口じゃないしな。
「お嬢様、おはようございます。朝食をご用意しましょうか?」
「自分でやるから大丈夫。成也とみなもの相手をしてあげて欲しい」
「ふふふ、私には普段通りでも構いませんよ」
「そういう訳にもいかないですから」
乳母のおばさん相手には一応敬語というか、外向けの対応をする。別にこの乳母さんが嫌いとかじゃなくて、線引きだな。
ウチは口悪いからな。身内以外にあった時にこの口調だと色々問題がある。それを矯正しようと思って、出来るだけ身内以外には丁寧な対応をしてんだよ。
……それを身内に見られた時は大抵笑われるけどな。特にパーティーとかで千草に出くわした時は大体からかわれる。
自分だって大して変わらねぇくせによ。そういう立ち回りはやっぱ歴の長い千草達の方が上手いんだよな。
「ねーね、ごはん?」
「そうだぞ。適当になんか作って食べる」
「みーもたべる~」
「えー、みなもは朝食ったんだろ? 昼食えなくなるぞ?」
ウチが台所に立ったのに気が付いたみなもが足元に来ると、朝飯を食ったって言うのに自分も食べると言い出す。
大体こういう時は腹が減ってないのにウチが食ってるから食いたいって時だ。食いきれないか、昼が食えなくなるかの二択になるから出来るだけ避けたいんだが、こうなるとみなもは結構頑固だ。
どうにも成也より食べるのが好きみたいなんだが、気持ちに身体が付いてこないってやつなんだろう。
「たべれる!!」
「そう言っていっつも食べられないだろ。だからダメだ」
「ぶー!!」
文句を言って足にしがみつくみなもを引きずりながらフライパンに火をかけ、薄切りのベーコンを適当に炒める。カリカリになるまでほっとくとして、その間に食パンを二枚出して、ふちをなぞるようにマヨネーズを一周させてトースターにぶち込んで焼く。
ベーコンの焼き具合が良い感じになったのを確認したら卵を二つ割入れてベーコンの油で目玉焼きを二つ焼く。ほどほどに固まったら火を消して蓋をして半熟に。
コップと皿を出して牛乳を注いで、レタスとプチトマトを雑に更にトッピング。焼けたマヨがけ食パンが独特な酸味のある匂いを放って来たら二つとも皿に盛って、二つのマヨがけ食パンにそれぞれベーコンを下敷きにした目玉焼きをON。
今日のウチの雑な朝飯はコレだ。朝から重いと言われるけど、魔法少女ならこのくらいは正しい意味で朝飯前。
ウチらからしたら軽食の部類だぜ。
「あー!! あー!!」
「騒いだってダメ」
「いけずー!!」
どこでそんな言葉覚えて来たんだよ。大人でもそんな言葉使わねーよ。うずくまって泣いたフリをして気を引こうとしているみなもを引きずってダイニングテーブルに朝飯を並べて、椅子に座る。
……仕方がないから、少しだけナイフで切り分けてやって、ウチも大口を開けてこの雑な朝飯を頬張る。
なんかこういうの久々だな。平和な日常、ってやつだよな。