青くて碧い
「魔法少女が徒党を組んで社会的地位を確立したのは間違いなく良いことだ。ただし、魔法少女が一斉に同じ向きに向くのはちょっと危険だね」
「何か魔法少女に不利益が生じた場合、鶴の一声で不利益を与えた相手に報復しそうよね。同じ思想で徒党を組むってそういうことだし」
「過激な宗教団体みてぇなもんだもんな。【ノーブル】より厄介になるよな。止められる奴がいねぇ」
魔法少女協会は魔法少女であるってことひとつで纏まっている組織だ。それ以上の縛りは無い。
魔法少女として何をするもしないも最終的には本人の自由。所属はしてるけど、訓練も魔獣の討伐にも参加しないで一般人として過ごしている奴だっているし、事務員として働いている人もいる。
魔法少女を保護して、社会的地位向上を目指す。それ以上のことはしない。思想で縛ったりなんて言語道断だ。
「その自由さが大事なのさ。それが自然と魔法少女が社会で馴染むためのリスクヘッジになっている。現に、碧たちは巨大な敵を倒すという一つの目標のために今は一緒に戦っているけど、個々人の最終的な夢は全然違う」
「確かに」
「碧もその中のひとつなのさ。あらゆる魔法少女が持って良い夢や目標のひとつに当たり前に碧だっているんだよ。それに大小とか価値の有り無しは存在しないししちゃいけないのさ」
「うむむむむ……」
成程なぁと思わされる。理屈的にも、こう心情的にも納得するしかないよな。でもなんかなぁ。
そう自分も壮大な目標を持たなきゃいけないって思い込みてぇのかなぁ。一種の憧れとか嫉妬みてぇなもんなのかもな。
隣の芝は青いっていうか、誰かが食ってる飯がやたら美味そうに見えたりとか。それと似たようなもんなのかも知れねぇ。
「碧が前からずっと当たり前に続けている事こそ、一番大事なことだと俺は思うよ。俺にはそれすら難しいと思わされるからさ」
「難しいか?」
「難しいよ。きっと、目の前にある大事なものを守り続けるっていうのは一番難しい。それを当たり前にやっているっていうのは本当に誇っていいし、だから碧の事を皆は認めているんだと思うんだよね」
「それはあるだろうね。無条件で背中を預けられる相手がいられるっていうのは本当に心強いと思う。リーダーとして本当に大事な資質じゃない?」
お袋はウチが身内を守る姿勢を見せ続けていたことが、皆にとって重要なことだったんだと言う。
戦いを続ける中でそういう存在がいるっつうのは確かにデカい気がする。無条件で信用できる仲間の存在ってホントに安心できるんだよな。
コイツなら大丈夫っていう信頼とか信用に勝るもんは無い。
「アンタがリーダーとして頼られていたのは、アンタが絶対に自分達の味方で守り続けてくれる存在だってことをよく分かってたから。そのアンタがブレられちゃ、年下の子から不安になっていくでしょうね」
「それか、見限られるか。そうなったらグループの崩壊だけどね。そうはしたくないんだろう?」
「そう、だな」
「なら、やることは1つでしょ」
カクテルを煽って、グイっとグラスの中身を空にするお袋の豪快な飲みっぷりを見る限り、娘のウチがウジウジ悩んでいることにそこそこイライラしている気配を感じる。
お袋、こういうの嫌いだもんなぁ。同じ穴のムジナのクセによぉ。お袋だって悩み始めるとドツボにハマるじゃんかよ。
なんて心の中で悪態を吐きながら、自分の中にあった鬱屈としたもやもやとした感情が少しずつ紐解かれているのは感じる。
ウチがやり続けて来た、身内を守るってことにウチ自身が飽きと不安を感じてる。簡単に言えばそういうこった。
しょうもねぇと言えばしょうもねぇよなぁ。こんなことで、とは思う。こんなことでウチは取り返しのつかない結果を呼び込んだんだ。