青くて碧い
それでも不安になるのが人間のサガってヤツだろ。
仮にウチの目標とかやりたい事が身近な誰かを守りたいってことだとしてもだ。そんなスケールの小さい話をしている奴と世界とか未来とかバカデカいスケールの夢を持ってる奴が同列に語れて、肩を並べられんのか?
そういうのはスケールが同じくらいな奴同士が並んでた方が何となくやり易いと思うんだが……。
「足並みが揃っていることは確かに大事だけどね」
「向いている行き先がバラバラだからこそ、良いこともあるってモノよ」
「ふぅん?」
翔也さんとお袋はウチの疑問に否定的、ってわけじゃないらしい。それぞれ良いことと悪いことがあるってことなんだろうけど、そうなるとやっぱ足並みが揃ってる方が色々と有利なんじゃねぇの?
そもそも同じ目的を持っている連中が集まって徒党を組むのが組織ってもんだしよ。
「そうだね。組織って言うのは基本的にはそういうものだ。会社とか学校とか、人が集まったり集められた時っていうのは大体なんらかの目的があるよね」
「だろ?」
会社はお金を稼いで再分配するため、学校は学生に勉強を教えて教育を受けさせるためだ。
個人や社会の目的に応じて、集まったり集めたり。社会の中で生きて行く人間にとって、組織っていうのは超絶大事だ。
どこに所属するかで人生が左右されるしな。その選択は慎重に選ぶべきだし、人生の中で何回かいる場所を変えて行くのが今の生き方のトレンドってやつでもあるだろうしな。
「その中で僕は組織や団体に大きく二つのパターンがあると思っているんだ」
「二つ? 同じ目標を目指すんだから一つじゃねぇの?」
「目標の目指し方が違うって言えば良いのかな。例えば学校は教育を受けて学力を上げるって言うたった一つの目標を全員同じやり方で目指すだろう?」
「まぁ、そうだな。大体同じ内容の授業受けてるし、教科書は同じだしな」
教師は学生の学力も上げるために、学生は自分の学力を上げるために出来るだけ効率化させた同じような授業を受ける。
そうやった方が目標を達成するのに手っ取り早いやり方だからな。そこで学力をちゃんと上げられるかどうかはそいつのやる気次第だけど、少なくとも最低限の学力は身に付けられるってもんだ。
それが良いか悪いかはさておき、最低保証が出来るってのは学力を付けるって点ではアリだよな。
「それと比べて会社って言うのは目標はお金を稼ぐって言う目標をあらゆる手段で達成しようとするんだ」
「そうなの? いや、まぁでもそうか」
「そうそう。案外、一つの方法だけでお金を稼いでいる訳じゃないんだよね。例えばスーパーは食品や日用品だけじゃない。案外テナントとか不動産系で安定した利益を出しているところもあるし、投資やってるところも多いよね」
「リスクヘッジってヤツだよな」
稼ぐ方法を幾つもにも分散させておくことによって何処かの部分で業績が悪化しても他でカバーして会社全体のダメージを出来るだけ減らす。
戦いの中でもよく見る方法だ。守りなら最強の真白なんかはありとあらゆる手段を並行してこっちのダメージを殺して来るしな。
会社で稼ごうって時もそうやってリスクを分散したり、役割分担することで効率的に……。
「あー、つまりなんだ? 魔法少女は同じ方向を向き過ぎるのは良くないって言いたいのか?」
「んー、そこまで極端には言わないけどね? 魔法少女って言うのはそうあって良いというか、そうあった方が安全、なのかな?」
そこまで考えて翔也さんが何を言おうとしているのかを何となくだけど理解する。聞いてみると概ね考えていることと同じことが返って来た。
魔法少女の、魔法少女協会の目的ってのは魔法少女の保護だ。その力を社会に還元して、一般人に理解を促したり、魔法少女の力を悪用しようとする連中を牽制抑圧するのが主な組織としての目的であって、実のところ魔獣の駆除はその目的を果たすための手段のひとつに過ぎない。
魔法少女の異端とも言える強すぎる力を一般人が被る魔獣からの被害を減らすことに使うことで、一般人から魔法少女は信用を得て、社会的な地位を築いている。
社会的な地位があるってことは社会的な保障があるってことだ。それが有るか無いかで、魔法少女が協会に所属しようと思えるかが変わって来るってもんだ。
協会に所属すれば、魔法少女として何らかの仕事を得られるし、協会や仲間の魔法少女に守ってもらえる。
魔法少女だって人間だ。社会から爪弾きにされたら魔獣と同じになる。