マジックチャージャー
「それを『魔動エンジン』の仕組みを解明することで出来るっていうなら、ボクは大賛成ですね」
「速くなりたいだけなクセに」
「うるせぇっす」
茶々を入れられますけど速さ=強さっすからね、ボクにとっては。限界を感じていたのに、その先の可能性を見せられたら期待するしかないじゃないっすか。
どうにもならない部分かも知れない、そう思っていたところが思っても無いところから解決策が出るかもしれないってのは驚きっすけどね。
それだけ考え方が凝り固まってたのかも知れないっす。無意識に自分だけで解決しなきゃいけないって思ってたのかも知れないっすね。
「あくまで可能性だがね。他にも早急に開発したい物が沢山あるし、しばらくは徹夜になりそうだ」
「……身体に毒っすよ。それでぶっ倒れたら意味無いっすからね」
「勿論。節度は守るさ。もう私も無理できる歳ではないしね。ただ、それくらいの覚悟を持って臨むという決意表明ってところかな。3年前、君達にかけてしまった迷惑をここで払拭しなければ」
「東堂さん……」
3年前、【ノーブル】という魔獣信仰団体を率いたテロ行為。東堂さんの決して消えない罪。
私達が解決したことによって、東堂さんは正気に戻ったけどだからってそれが消えるわけじゃない。
せめてもの償いのひとつとして、自分を限界まで追い込んで私達の力になる。そんな感じなんでしょうね。
ボクからは何か上手く返す言葉は出なかったっす。ボクはかつての敵ですし、まさに【ノーブル】の被害に遭う直前までいった魔法少女の1人です。
色々あって、今はこうして仲間としてやってますけど、【ノーブル】の被害を受けた人は数えるのも大変なくらいいます。
それを考えるとボクの一存だけで東堂さんに慰めの言葉をかけるのは違う気がするんすよね。
「ま、大人は大人のやるべきことをやる。お前らはお前らのやるべきことをやれ」
「そうね。私は舞、アンタがもっと速くなることに集中出来るように手を貸してあげる」
「元よりそういうつもりで着いて来たんじゃないか。ニーチェ君も素直じゃないねぇ」
「うっさいわよ!!」
微妙になった雰囲気をお父さんが誤魔化し、ニーチェが乗ったところで東堂さん本人が更に茶化してうやむやになる。
てかニーチェ、そんなことを考えてたんですか。余計なお世話っすけど……。世話焼きなのは変わらないっすねぇ。余計なお世話っすけど。
「アンタ、なんか失礼なこと考えてない?」
「考えてるっすよ」
「ちょっとは否定しなさいよ!!」
またぎゃあぎゃあ騒ぐニーチェを無視しながら、東堂さんとお父さんの近くまで行きます。もう2人の興味は目の前にある大型船用のエンジン。恐らく超大型の『魔動エンジン』と思われる物についてアレコレ喋っています。
2人とも真面目な顔してるっすねぇ。完全に仕事をしている時の顔っすよ。お父さんもそうっすけど、男の人ってプライベートで話す時と仕事で話す時の雰囲気とか顔つき変わるっすよねぇ。
まぁ、別に何を思う訳でも無いっすけど。なんですか、良いっすよね。そういうの。
「何故これほど大きな『魔動エンジン』を作る必要があったのだろうか。私だったらこの資材を使って文明的に他の種族に優位に立とうとするが……」
「さぁな。だが、一番の謎は周りに海がねぇのにこの『魔動エンジン』で何を動かすつもりだったのかだ。こんな馬鹿でかいエンジンで発電するとは思えねぇ。これだけの物を使って『何か』を動かすつもりだったんだ」
「だが、その願い或いは目論見が叶う前にここにいた人々は全滅してしまった。時間がかかり過ぎてしまったんだろうね。乗っている人々が男性しかいなかったというのも致命的なモノだったんだろう」
「確か離島に最新設備を備えた研究所だかなんだかを作ろうってしてたチームなんだっけか?あの時代ならまだ仕事は男所帯だからなぁ……。子供が出来ねぇと技術の継承は出来ねぇ」
知識と技術で生き延びられても、次に繋ぐことが出来なかったんだろう。って東堂さんが漏らします。
そっか2003年頃だとまだまだ技術職には男性しかいない時代なんすね。
今でこそ、普通に技術職の女性いますけどね。
時代が招いた不運、ってことなんでしょうかね。
なんて思いながら目の前にあるある巨大なエンジンを改めて見上げるっす。
2人の話の通り、このエンジン君は一体何を動かそうとしていたんっすかね。ロマンってのはワクワクするっすね。もの凄く、楽しみっすよ。