マジックチャージャー
「ここにこんな物があるのが気になるかい?」
「そりゃあ、だっておかしいじゃないですか」
大型船用のエンジンを見上げているとそれが面白かったらしい東堂さんにニコニコしながら聞かれました。
そりゃ気になりますよね。だって周りは崖と山。海なんてどこにもありません。
ましてやここは妖精界の公国領。人間界とは程遠い場所っすよ?
なんでそんなものがここにあるんすか。
「正直に言うと、何でこれがここにあるのかはサッパリだ」
東堂さんの第一声にボクは思わずズッコケました。
いや、わからないんかーい。如何にももう分かっていますって雰囲気だったじゃないですか。
それなのにわからないって、なんかこう、どう反応しろと?
ボクの反応を見てケラケラ笑う東堂さんの性格を疑いますよ。全くもう、意地の悪い人ですね。
「いやはや思った通りの反応をしてくれて嬉しいよ」
「ぐぬぬぬ、手のひらで転がされてる……」
「まぁまぁ。代わりと言ってはなんだけど、ここにある理由がわからない代わりに轟きの遺跡の正体についてならもう分かっているよ」
「正体?」
轟きの遺跡は遺跡じゃないんですか?それに正体もなにも無いような気がしますけど。
また首を傾げる話ですよ。だからボクは頭脳労働には向いていないんですって。
出来るだけ噛み砕いて話してほしいっすね。
「なに、このエンジンを見たのならそのままそれが答えさ」
「……じゃあこの遺跡は船だって言うんですか?」
「ご名答」
ビシッと答えを言ったボクに対して東堂さんは楽しそうに指を指します。
船が轟きの遺跡の正体だと言われても、ピンと来ないですけどね。
今のところ船っぽいところなんてこの大型船用のエンジンだけじゃないですか。
まさかわざわざ外を崖にカモフラージュでもしたんすか?
「そのまさかさ。この船の名前はブルーオーシャン。大型のフェリーで鹿児島から八重山諸島を往復していた定期便だ」
「そんな船ありましたっけ?」
「舞君が知らないのも当然。この船は今から約30年前に運行していた船だからね」
「え?」
今から30年前に運行してた船って言うと、今が確か2033年だから……。2003年?
めちゃくちゃ前じゃないですか。まだ魔獣被害が出たころより更に20年も前の船が何でこんなところにあるんですか。
しかも、轟きの遺跡は数千年単位前の遺跡って話ですよね?
なんもかんも繋がらないですよ。そんなことがあるんですか?
「この船に何が起こって、何故ここにあり、遺跡として残っているのか。現段階では何ひとつわかっていない」
「ただ、分かってんのは実際にこの船と船に乗っていた乗客乗員が人間界で行方不明になったってことと、ついこの間その身元の照会が終わったってことだけさ」
「身元の照会って、この前の……」
身元の照会って言うとボクが初めて轟きの遺跡に来た時に見つけた棺に入れられた幾つものご遺体のこと、だと思う。
沢山の棺にそれぞれ故人の遺品と思われる物と名前や所属を示すだろう名札が入っていたハズ。
とは言え、殆どボロボロになっていたから参考に程度っすよね。
そうじゃなきゃご遺体の身元の照会はとっくの昔に終わってるハズっすから。
……ご家族のもとに帰れていると良いっすね。
「乗員乗客、合わせて137人。無事に身元がわかったよ。食料も無い未開の地で1人、また1人と倒れて行く中で良くぞ丁寧に遺体、遺品を保存しようと心掛けてくれた。おかげで彼らのご遺族に遺体を引き渡すことができたよ」
ただし、ミイラ化した遺体を見た時に泣き崩れる方もいたがね、と漏らす東堂さん。
きっと真面目な東堂さんは全員の家族と会って、その光景を見ていたんだと思う。
この人はそういう人です。誰かの辛さとか悲しみとかに物凄く寄り添う人なんです。
ちょっと心配になりますけどね。心にものすごい負担がかかりますから。
「見つけた以上、そしてそれに妖精界や魔法といった事象が関わっている以上、それを解明し遺族に伝えるのも私の役目。そのためにはまず轟きの遺跡についてよく理解しなければならない。その協力を君の父君にしてもらっているのさ」
「そういうこった。おかげでこっちも面白いもんたくさん見れてる」
東堂さんの考えとそれに呼応したお父さんがこの轟きの遺跡の解明に協力し合っていると聞いて驚く。
まさかお父さんにそんな考えがあるとは。家帰ったら食っちゃ寝しかしてない中年親父のクセに。




