マジックチャージャー
「湿気たツラしてんじゃないわよ。折角手伝いに来たって言うのにアンタがそんなんじゃこっちもやる気が落ちるんだけど?」
「ボクだって考え事のひとつくらいはするんすよ、ニーチェ」
遺跡から運び出された遺物を調査隊の本拠地まで運び込むとそこで待っていたニーチェがボクの顔色を見るなり文句を言ってくる。
失礼っすよ、ホントに。まるでボクが日頃から能天気だって言っているようなもんです。
「実際、能天気じゃない。アンタがこんなところで雑用してる時点でこっちは不満だって言うのに」
「だから言ってるじゃないですか。ちゃんと理由があるって」
少し前から『轟きの遺跡』には人間界から大規模な応援部隊が到着していた。主に『魔法技術研究所』の研究者とエンジニアの人達が中心だけど、ニーチェはそれに無理矢理ついて来たんっすよ。
どっから聞きつけて来たんすかねぇ。毎日文句ばっかりで煩いったらないですよ。毎日毎日ぴーちくぱーちく、よく飽きないっすよね。
「なんか文句あるの?」
「文句しかないっすね。煩くするだけなら帰った方がいいんじゃないっすか?」
「なんですってぇ!!」
「うるせぇんすよ!!」
勝手について来たくせにあーだーこーだと文句ばっかり聞かされるのはうんざりするってもんっすよ。姉弟子だからって遠慮なんてしないっすからね。ここではボクらの言うこと聞いてもらわないと困りますから。
バチバチと雷属性の魔力がぶつかり合う。
その様子に周りの人達はまたかと遠巻きに笑いながら通り過ぎて行きます。ここ最近ではよくある光景扱いされてるのがなんかムカつくっす。
「姉弟子をちょっとは敬いなさいよ!!」
「勝手に来て騒いでるバカをなんで敬わなきゃいけないんですか!!」
2人でぎゃあぎゃあ騒いでいると新しく建てた臨時の研究室から人影が出て来る。のんびりと歩きながら白衣を翻す姿はボクらにももう馴染みの光景になりつつあります。
「君達も飽きないねぇ。ケンカする程仲が良いとも言うけど、周りに迷惑をかけるのはいただけないって言ってるでしょ」
やって来たのは『魔法技術研究所』の所長、東堂 淳弥氏。3年前には【ノーブル】という秘密結社の率いてS級魔獣『大海巨鯨 リヴァイアタン』を復活させようとしていたような経歴を持つ人。
かつての悪の親玉みたいな人っすけど、それも殆ど誰かに担ぎ上げられた被害者の1人ってことで今後の生活を魔法の発展に寄与することを条件に釈放される司法取引っていうのをした人です。
ホントに良い人で、ボクからするとこんな人が極悪人的な経歴を持ってるなんて信じられないっす。
「「仲良くないです!!」」
「そんだけ息ピッタリで仲良くないは無いでしょ。ドンナ君の姉妹弟子なんだからちょっとは落ち着いてくれないとドンナ君に連絡するよ」
「「……」」
そんな東堂さんにドンナ師匠の名前を出されてボクとニーチェは揃って黙ります。ドンナ師匠にこんなことをしてるなんて知られたら最後、2人揃って文字通り雷を落とされるっす。
ボクとニーチェにとってはそれほど怖いことは無いっすよ。いや、マジで怖いんっす。ホントに、洒落にならないくらいに。
「特にニーチェ君。君はドンナ君にも黙ってこっちに来ている以上、こっちで問題を起こしたらどうなるかはわかっているだろう? ドンナ君にも君の経歴にも傷が付く。そろそろただの脅しじゃ済まなくなって来るよ」
「す、すみません……」
「舞君もだよ。売り言葉に買い言葉じゃトラブルになるのはわかっているハズだ。気の知れた姉弟子だからと言って喧嘩腰をすること自体が大人げないよ」
「はい……」
結局、揃って東堂さんにしっかり絞られて、遺物搬出の手伝いに戻る。ニーチェも自分が手伝っているところに戻って行く。
ボク達はそんな感じで轟きの遺跡の発掘調査と指示をひたすらに待っていました。