魔法少女はじめました
あの後、俺達も電車に乗り、田舎のボロいバスに揺られて帰宅する
辺りは田んぼや畑も点在している田舎の街並み。大根畑という地名も、昔からこの辺は大根をよく作っていたことが由来らしい
そんな片田舎のアパート、1階4部屋、2階も同じく4部屋あるうちの1階の左から2番目
有り体に言ってこのアパートの102号室が、今俺が住んでいる場所だ
「やっと帰って来れたな」
「まさかバスを待つのに40分とはね、田舎の駅前と言うのを考えてもタイミングが悪かったよ」
結局、昼をまたいでからやっと帰って来れた自室のベットにドサリと身を投げながら脱力し、部屋のエアコンを入れる
ジメジメして休憩どころでない。流石は夏、曇っていても気温は昼を過ぎれば夏日は余裕。しかも湿度はあがるので、不快指数は結局いつもと大差ない
「シャワー浴びるか……」
「僕の分の水桶を出しておいてくれるかい?」
「りょーかい」
クーラーが効き始めるまではこの不快感は拭えない。どうせならその間に汗を流してスッキリした方が良いだろう。そう思って、だらけた身体に鞭を打ち、8畳ワンルームしかないリビングから、風呂場へと向かう
ついでに、パッシオの分の水桶の用意だ。普通の動物なら、シャワーを嫌がるのも多いが、そこはやはり妖精。あいつは割と綺麗好きであり、毎日ちゃんと風呂に入る。おかげで獣臭さも無く、抜け落ちる毛は排水口に引っ掛かる位なので楽なものだ
しかもその毛も、自分の身体から出たものが大半という事で、都度掃除してくれる
こう言うところはマメなのだろう
シャワーも浴びてサッパリした俺は、体のつくりの関係上、タオルでは上手く全身の水気を切れないパッシオの身体を拭いてやりながら、ベットに置いてあったスマホを手元に寄せて
「『チェンジ。フルール・フローレ』」
【CHANGE!!FLEUR・FLOR!!】
アリウムフルールへ変身するための言葉を発し、スマホがそれに合わせて画面を明滅させながら、少々うるさい機械音声と共に花型の魔法陣が俺を包む
「『チェンジ、コンプリート』」
【CHANGE,COMPLETE!!GOODLUCK!!】
そこに現れたのは服装と髪の色が男の頃と変わらず、赤茶色と変わらないまま、肉体だけが魔法少女のそれとなったアリウムフルールに変身した俺の姿だった
この姿は所謂省エネモードだ。魔法少女、と言うのは身体の表面に薄い魔法を張り巡らせている
この魔法が、魔法少女の姿や服装を普段のそれとは別物にして、変身していない姿では周囲に魔法少女だとは分からない様にしている他、多少の攻撃や衝撃などを緩和してくれる、バリアー的な役割を果たしているのだ
つまり、魔法少女は常に身体に魔法を張り巡らせているのだ。故に変身していられる時間に当然それぞれ限界がある
今の俺は、その魔法すら解除した状態。ただ魔力を何時でも使えるようにしているだけで、魔法は使っていないので、魔力を閉じない限り、俺はこの姿のままである
「また練習するのかい?熱心だねぇ」
「するさ、どうせやることも無いしな。ダラダラとTVやパソコンを眺めているより、ずっと良い」
その姿で何をするのか。それは当然の如く魔法の練習である
ハッキリ言おう。魔法少女アリウムフルールは恐らく魔法少女として、魔獣と戦う能力は限りなく低い
本来、魔法少女が攻撃に使う属性魔法。火、水、土、風、雷、光、闇と言った攻撃に適した属性を伴った魔法を、アリウムフルールはほぼ使えない
使えたとしても、指先にライター代わりに火をともしたり、コップ半分の水を出すのが精いっぱいだ
代わりに、防御に使う障壁魔法。文字通り怪我を直す治癒魔法。こちらに関してはべらぼうに扱える
ようは向き不向き。才能の問題だ。アリウムフルールは潜在的に、魔獣と戦う才能がほぼ無い
代わりに味方を守り、味方を癒す才能はパッシオが太鼓判を押すレベルである。実際、障壁魔法であるなら、自由自在に形と場所指定できるし、治癒魔法も擦り傷レベルなら数分とかからない
アリウムフルールの名前間違えまくって申し訳ないです……
誤字報告、本当にありがとうございます