地獄から帰って来た者
どのくらいの時間が経ったんだろう。常に吹雪いている雪山だと時間間隔が段々とおかしくなってくるね。
わかっていることと言えば、もうそんなに時間は残ってないってことくらいかな。タイムリミットは72時間。日にちで言ったら丸3日。
もう2日くらいは経ったのかな。体感ではそのくらいは時間が経っている。
「……」
「良い感じになって来たわね。だいぶらしくなって来た」
集中は必要だけど、一瞬だけ雪山に吹雪き続けていた雪が止む。と言っても広い範囲じゃなくて半径300mくらいかな。
雪女さんの求める雪山そのもの吹雪を止めちゃうくらいの力の使い方にはまだまだ届かない。
やっと取っ掛かりを掴めてきた。そんな感じかな。
「はぁ、時間が全然足りなさそう」
「随分と弱気ね」
「流石に気が滅入るよね。これだけやって、たったこれだけかぁ」
3日という時間ではまるで足りそうにない。年単位の時間が必要だなって思わされると気弱にもなるって話だよ。
雪の中にぼすんっと身体を埋めても全然冷たくない。まるでふわふわの羽毛布団の中にいる気分。
雪女としての気質がまた強くなった気がする。雪山で寒いとは感じなかったけど、雪が羽毛布団に感じるなんてね。
「現実世界ではだいぶヤバい感じ?」
「そりゃもう、ね。そろそろ部屋ごと凍っちゃうんじゃない?」
「そりゃ大変だ」
雪女さんは外の様子も何となくだけど分かるらしいんだけど、その話を聞くとそっちもだいぶ大変みたいだ。
雪女としての力が全開になっているみたいで、結界で封じ込まれてはいるけどほっとくと部屋どころか地獄の一画が全部凍っちゃいそうな感じらしい。
頑張って抑え込んでいられる時間が72時間っぽいよね。全力の雪女ってそんなに怖いんだって思うよ。
あんまり強かったりする印象はないからさ。
「自然そのものを相手にしているようなものだからね。そりゃその辺の雑魚なんて一瞬で氷漬けよ」
「こわ」
「悪趣味な雪女は気に入った獲物を氷漬けにして保存しておくのよ」
「こっっわ!?」
悪趣味だよ流石にそれは。気に入ったからって氷漬けって……。あれなのかな、フィギュア集めて飾ってる的な感覚なのかな。それだったら氷像で我慢して欲しいけど。
雪女についてドン引きしていると雪女さんはケラケラと笑っている。この短い間ですっごく仲良くなった。
私とたくさんお喋りして、よく笑うし、いろんなことをたくさん話してくれた。
楽しいよねぇ、お喋り。私は皆とずーっとおしゃべりだけしてたいもん。そのくらい平和な世界になって欲しいよね。
って、どっちかと言えば私がする側か。へへへ、まだ自覚出来ないなぁ。私がヒーロー側だってこと。
「言ったでしょ。淫魔系なのよ私達。気に入った人間とずーっと一緒にいたいのよ。それこそ、永遠に」
「そうだけどさー。現実的には難しいじゃん。それこそ不老不死でもならないとね」
雪女だってずっと生きていられる訳じゃないだろうしさ。諸行無常とは違うかもだけどさ、必ず尻すぼみになっていくものだよね。
いつかは無くなる。どんなに手を尽くしてもありとあらゆるモノはいつか無くなるし、永遠に縋るよりはその時その時を大事にしたいってもんだよね。
「……そうね。そうやって生きていられたら、本当に良かった」
「やっぱり、雪女はそうはいかないんだ?」
「何度も言ったけど、雪女は基本1人なの。生まれてから死ぬまで、ずーっと1人。人肌に触れられるのは遭難者から精気を吸い取る時くらい。だから、雪女は執着心が強いのよ。母の温もりすら、雪女は知らないから」
なんだか悲しい生き物だ。自然から生まれる雪女は母親となる生き物がいるわけじゃない。生まれてから死ぬまでずっと孤独。
それは私からしたら耐えられない地獄みたいなものかもしれない。
その寂しさとか自分が持っていない温もりを埋めるように遭難者を襲い、精気を奪う。それが雪女の生態。
それを考えると、お気に入りの存在を氷漬けにして保存しておこうっていうのも少しはわかるかも。きっと、寂しいんだよね。




