地獄から帰って来た者
「一つめはシンプルだ。単純に魔法や兵器を用いて殺すという方法だ」
「ですが、それは……」
「あぁ、お前達もよく分かっている通り、生半可なものは全く通用しない。魔法なら地域一帯を消滅させるような超高火力のモノが。兵器で言うなら核、だろうな。その規模じゃなければヤツを殺すことは不可能だ」
無茶苦茶だ。率直にそう思う。世界を破壊する者を殺すために自分達が世界を破壊するような魔法や兵器を扱わなければならない。
本末転倒、と言わざるを得ない。が、同時にやはりその規模感が必要なのかと納得もある。
それだけ、あのショルシエに攻撃が通るイメージが湧かない。三年前に戦ったショルシエの偽者にはそんなことは無かった。これは由々しき事態だ。
魔法はイメージだ。イメージの強さがそのまま魔法の強さに変わると言って良い。だと言うのに戦う前から攻撃が通用しない。そんな印象を持ってしまっている現状では私の魔法はショルシエに通用しない可能性が高いのだ。
正直、私以外の魔法少女の殆どがそうだろう。まともに攻撃が通るのはシャイニールビーだけの可能性がある。
「ハッキリ言ってかなり厳しい方法だ。大きな犠牲を払う必要がある。最悪の場合、同士討ちか、自分達が行った攻撃の余波で世界が滅茶苦茶になって滅ぶ」
実際にそういう世界もあったらしい、とこぼす郁斗さん。何も言わず、心痛な面持ちの閻魔大王を見るにこの話は事実なのだろう。
世界を守るために使った兵器で自滅してしまった世界。まさにディストピアなものなんだろう。
自らの手かそうじゃないかでしかない最悪の結末だな。むしろ自分達が原因になってしまったのを考えれば、その世界に住んでいた人々からしたら『敵』に滅ぼされるより許しがたいものだったかもしれない。
「そもそもに『獣の王』も含めて、『敵』には厄介な特性が必ず1つ付与されている」
「特性、ですか?」
「あぁ、次元障壁と呼ばれるものだ」
次元障壁。聞いたことも無い種類の障壁だ。真白でも知らないだろうそれをショルシエを含めた『敵』は保有しているらしいが、如何せんその次元障壁とやらがさっぱりだ。
名前からして強力な障壁魔法の類ではあるのだろうが、何処までいっても障壁は障壁。基本的な欠点はどれだけ手を尽くしても覆せないのが当たり前だ。
例えば、剣は実体が無ければ斬れない。刃が潰れてては斬れない。振らなければ斬れない。
当たり前だが、障壁にもこういうものはある。この辺もやはり障壁魔法の使い手である真白がだれよりも詳しい。
「障壁、っては言ってはいるが実際は全く別物だ。魔法と言うより世界のルールに近いものだ」
「次元、文字通り法則の違う異なる世界のことを言うのは知ってるよね?」
「何となく、は。一次元とか二次元とかそういうのですよね。詳しくは知らないですが……」
「正直、俺達も正しく理解してない。というか出来ない。文字通り次元が違い過ぎて理解不能ってところだ」
私達、2人揃って感覚派だからなおさらね。と悠さんが続いて言葉を漏らす。
次元、次元かぁ。2人の言う通り、全くピンとこない。印象だけで言えば、そこにあるのに干渉出来ない、見えない壁のようなそういうものか?
「……あ」
そこまで考えて、思い出したことがある。確か、一度だけシャイニールビーがショルシエと交戦した時の話だ。
何か、見えない分厚い壁みたいなものに阻まれて、攻撃が一切通らなかった。確か、朱莉はそう言っていた。
最終的には力づくで無理矢理壁を破壊したと言うが、まさかそれが……。
「ご明察。それが次元障壁。自分がいる位相をずらして……。あー、簡単に言うと自分の存在だけを別の異空間に飛ばして、そもそも干渉できなくするって感じの特性だ」
「障壁とはいうけど、実際は転移系の技術になるみたい」
「つまり、見えるけど手出しの出来ない別の世界に逃げてるってことですか?」
「あぁ、それが近い。物理的にじゃなくて、概念レベルで干渉できなくなるから、何か壁にぶつかったみたいな感触になるんだ。だから障壁って言われている」
理解するのには難しいが、何となくは分かった。攻撃を防いでいるのではなく、攻撃が届かない所に逃げているのが次元障壁、か。
シャイニールビーはこれを力づくでぶっ壊したとか言ってたが、アイツどうなってるんだ。




