地獄から帰って来た者
「ま、細かいところは省く。というか俺らも説明出来ない」
「領分が完全に神様のそれだしね。何処までいっても一般人枠の私達にはどうにも出来ない分野だし」
色々他にも聞きたい事はあるが、説明出来るのはここまでらしい。この世界に生きるただの生き物である以上、出来ることに限界があるようだ。
世界と世界を行き来するのは神の領分。郁斗さん達にすらそう出来ることではないらしいが……。
「だとすると並行世界から来たお二人や人間界と妖精界の話はどうなっているんですか?」
その理論だと並行世界から来たという郁斗さんと悠さん。そして人間界と妖精界はどうなんだという事になる。
2人は例外中の例外。何かしらの特例を持つ存在だとするとして、人間界と妖精界は壁こそあれど自由に行き来出来ているように思う。
世界と世界はパイプのようなもので繋がっているのだという話にも矛盾する。一体どれがどれなのか。
「それは千草さん達の世界が特例なんですよ」
「因みに俺と悠も特例側だ。神の関係者で世界の守護者って立場だから許されてるだけで普通なら並行世界の移動なんて出来ないぞ」
「好き勝手移動できるわけじゃないしね」
どういうことなのかと思っていたら特例だらけだった。郁斗さんと悠さんは先ほどから話に出ている世界を股にかけて戦う物凄い神の弟子で、2人の言う『敵』を倒したからこその特権。あるいは別途与えられた役割の一つといったところか。
だが、私達の世界が特例だというのはどういうことだろうか。
「俺達の世界に元々は魔法があったことは知ってるな?」
「はい、高嶺流がそれにあたるものですよね」
「それがおかしいのさ」
指摘されたのは高嶺流がおかしいということだった。首を捻って考えた後にそれが誤解であることにもすぐ気が付く。
高嶺流がおかしいのではない、人間界にそもそも魔法があるのがおかしいのだ。魔法に古いも新しいも何もだ。魔力は妖精界から流れ込んで来た。だから生き物が魔獣化してしまった。
同じように魔法少女もそうやって生まれた。それより以前に魔力なんてものは人間界に無いはず。それなのに少なくとも何百年も前に魔法が存在しているのは矛盾だ。
そして私のルーツである天狗の存在や雪女の存在もおかしいだろう。それらが魔力を有していたかはさておき、その存在はどう考えても妖精界側の存在だ。
人間界に何故妖怪や魔物の類が実在した過去があるのか。
「世界ってのはな。ザックリ言って二つに大別されるんだ」
「一つは科学の世界。人間界がそれだね」
「二つ目は魔法の世界。こっちは妖精界のことだな。何故この二つが分けられるかは想像つくか?」
「……ルールが違うから、ですか?」
科学と魔法。根幹のモノがまるで違うと言っていいだろう。
物質と物質の反応や物理的なものからエネルギーを生み出し、機械を動かすのが科学。
魔法はエネルギーそのものを操り、そこに付与した特性を反応させたりして術式を運用する技術体系だ。
似ているようで全く違う。高度になればなるほどその差は埋まって行くが根本的に魔法と科学はエネルギーに対して決定的に違いがある。
そこを指摘すると郁斗さんはそうだ、と頷きと共に返してくれた。
「基本的に魔法の世界で機械は発展しないし、科学の世界で魔法は淘汰される。その世界で有利になったルールでその世界はどちらのタイプに属するかが決まるわけだ」
「私達の世界の異常なところは2000年くらい前まで魔法も科学もどちらも平等に発展しちゃったことなんだよね」
天秤のようなものか。魔法のルールと科学のルール。どちらかに少しでも傾けば加速度的に天秤は傾いていく。
誰だってどんな種族であっても、使いやすくて便利なモノを優先して使う。
魔力が少ないのに火の魔法をわざわざ使わず、ライターやマッチを使うだろう。
逆にライターやマッチという道具を作れなかったり原料が手に入らないのに無理してそれを使う必要は無い。火を出す魔法で解決する。
その天秤が長きにわたって平等に保たれていた。驚異的な奇跡と言っていいだろう。そんなことを誰も予想なんてしていないはずだ。
「因みに原因はこの世界の創世神がやたらめったら世界の要素を詰め込んだせいです。おかげで世界そのものが形を成し、生命が安定するまで数十億年もかかってしまいました」
とうとうこの世界を創った神の話まで出て来ていよいよスケールがおかしくなってくる。一介の小娘に話をするには重すぎるしデカすぎないか?




