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これまでの事、今の事、これからの事

私は本来は男性だ。26歳の30代もそろそろ見えて来たいい歳こいたおっさんと呼ばれる頃だ。

残念ながら、見た目が伴わないので中々実感されにくいけれど、26年間生きて来て、正直波乱万丈の人生だったと、自分でも思う。


10歳を前に母を亡くし、その件で父とは仲違い。学生時代は高校でこそ、演劇部に半ば無理矢理な形で加入していたものの一匹狼を気取っていたので放課後遊ぶような友人まではいなかった。


その後、看護学校に入学、卒業。飛び出すようにして『果ての無い医師団』に看護師として加入。しかし担当した地域で起こった紛争に巻き込まれ、自分たちだけが助けられるという現実と理想の乖離に耐え切れず看護師を辞め、一年ばかり虚無を抱えたまま無職で過ごし、今は無償で魔法少女をしながら女子高に通う。


うん、自分で言ってても後半が特に意味不明だ。何故、自分が魔法少女になれるのか、度々起こる自身の身体の変化についても、何も全く全然分かっていない。

ただ、自分は魔法少女になれる力がある。パッシオはそのきっかけを与えられるけど力が出せない。


お互いに叶えたい願いがある。


この世界から、魔法少女を無くす。私たちの最終目標は、変わらずここだ。

手段も方法も、出来るかどうかさえ分からない。でも、出来ないと諦めるのはもう嫌だ。


だからパッシオの手を取った。だから魔法少女になった。

それが、今はどうだ。


守りたいと決めたはずの魔法少女に守られ、守らなければならないただの人に庇護されている。

まるで逆だ。私達が望んだ現状とは、全くの逆。


傷つく彼女たちを少しでも助けたかったのに、傷付いた自分を助けてもらっている。

魔力と言う圧倒的な力を持つのに、大企業とは言え民間の人々に手厚く保護されている。


私はその好意と幸運に甘えているだけじゃないのか。実際、甘えている自覚は、ある。


千草は口うるさいけど優しくしてくれる。墨亜ちゃんはたくさん甘えてくれて心が潤う。

美弥子さんに髪を梳かれるのは気持ちよくて大好き。十三さんは厳しいけど私達の事を真剣に考えてくれてる。田所さんは無口だけど飴をたくさんくれる。


光さんに抱きしめられるのは嬉しい。玄太郎さんに撫でられるのも大好き。


優妃さんはからかってきてばっかりだけど、普段から私に不躾な視線を向けてる人の視線を遮ってくれてる。美海ちゃんに食べさせてもらうパフェは美味しい。委員長が沢山の人に気を回すように言ってくれているのを知っている。


魔法少女の皆だって、大事な仲間だと思ってる。大事な友達で仲間だ。


皆、皆大切だ。失いたくない、嫌われたくない、願わくばずっとあそこにいていたい。

そのくらい、甘美な場所だ。パッシオと立てた願いと誓いを忘れたわけじゃない。


どっちも、どっちも大事なんだ。我儘を言うなら、あそこでパッシオと、魔法少女の皆と、諸星家の皆と、郡女のクラスメイト達と、ずっと一緒にいて自分たちの願いを叶えたい。


「……でも、私は皆にウソをついてる」


このたった一点。どうしようもない現実。変えられない事実。


私は、皆に本当の事を伝えていない。


自分が男だってことを、小野真白と言う人間だと言うことを、決定的なまでに皆とは違う部分があるってことを、伝えていない。伝えられない、伝えるのが、怖い。


「パッシオは、どう思う?戻っても良いと思う?」


「……すぐに、どうこうはならないとは思う。ただ、いつか選択しなきゃならないことだとも思う。全てを打ち明けるか、何も語らずにあの場所を去るか。どちらが最善かと言われると、僕も正直決め兼ねる。本来の事を考えるなら、僕らは去るべきだ。でも、真白、君の事を考えるなら、僕は戻った方が君のためなんじゃないかと、そう思ってしまうよ」


「どうして?」


パッシオはいつかは選ばなくてはいけない選択だと言う。私もそう思う。戻るなら、いつかはしなくちゃならない選択だ。いつか、どこかで迫られる選択。


ただし、パッシオは私の事を考えると、戻った方が良いと言う。どうして?素直に、疑問に思った。


「君は、1人で頑張り過ぎだ。僕が不甲斐ないせいだとも思う。それでも君は、今までも、そしてこれからも、1人で沢山のモノを抱え過ぎだ。今までのモノは今更降ろせないかも知れない。でも、これからの事なら君が背負い過ぎている事を他の人たちに分配できる」


「でも、それは私が背負うべきだよ。私がすべきことなら、することなら、私が背負うべき」


「それじゃあ、それじゃいつか君が潰れてしまうっ!!君は確かに強いよ!!君が語らない過去にどれだけ壮絶なものがあったのか、僕には想像も出来ない!!それを耐えて!!これからも耐えようとしている君は本当に強いと思う!!」


その疑問に応えた彼は、声を張り上げて訴えかけて来た。

大声で指示や危険を知らせることはあっても、私自身に対して、ここまで声を大にして何かを訴えてくることは初めてだった。


パッシオはパッシオなりに、私の事を考えてくれていた。私が思っているより、ずっと。


「でもこれ以上は……っ、これ以上は君に何かを背負わせたくない。君を魔法少女にしておきながら、身勝手なことを言ってるのは分かってる。でも相棒として、言わせてくれ案じさせてくれ。君は、頑張り過ぎだ」


確かに勝手だ。私を魔法少女に誘い、パッシオもパッシオが語らない事情で私と一緒に同じ願いを目指している。

そんな彼が、これ以上は頑張ってほしくないと言うのだ。勝手な話だ。途方もないことを目標に掲げているのに、頑張るなと言うのだから。


「でも、いつかは壊れる関係なんだよね。嘘をつくっていうのは、そう言うことだと思う」


「そう、だね。お互い、虫の良いことばかりを考えている」


2人そろって自嘲気味に笑い、部屋の天井を見上げる。


きっと、諸星との関係をリセットするなら今が最大のチャンスなんだろう。千草にも墨亜にも、諸星家の皆に嫌われるだろうけど、きっとそうした方が良い。


多分、きっとそれが最善だ。


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