地獄から帰って来た者
「具体的にどうすれば良いの?」
「簡単です。千草さんとやっていること自体と根本的な部分は変わりません」
その千草が何をやっているのかがわかってないんですけどね。どうせバチバチ戦ってるんだと思うけど。
案外、この世の中っていうのは体育会系だ。正しい意味での根性と強いフィジカルと精神力を求められるのは力を持たない人からしたら理不尽な話だよね。
「千草さんは今、調伏という段階です。つまりルーツの力と戦って、自分の方が優位であることを証明する段階です」
やっぱりバトってた。千草のルーツが何かは分からないけど、きっと激しい戦いになると思う。郁斗さんと悠さんがこっちに来ないことがその証明かなって。
あっちの方が危険度が高いんだ。ワンミスがそのまま失敗。それはイコールで千草の死に直結する。それを止めたり、間に割って入るための人員が欲しいってことだ。
逆を言えば、私はそういうことが不必要な試練。あるいは二人でも干渉することの出来ない試練の方法なのかもね。
「要さんには調伏という工程は必要がありません。調伏はこれからルーツの力を引き出すための方法。既にルーツの力を手にしている要さんには別の試練を与えます」
「そう言ってるけど、ようは体のいい修行だよね」
「建前というのは大事なのですよ」
あーだこーだ言っているけど、試練じゃなくて修行だよねコレ。私達に基本的にリスクないもんね。いや、ミスったら死ぬってリスクはあるけどさ。ケアはしてるじゃん。
そもそもクリア出来ない試練にしてないと思ってる。ギリギリだけどクリア出来る難易度。絶対に無理なら、閻魔大王様はきっと私達に試練そのものを受けさせてくれない。
それは郁斗さんと悠さんも同じだ。ルーツの力を私達より理解している2人だから、難しさと危険もよく知ってる。
その2人が私達にも出来ると判断して、ここに連れて来てるんだよね。
「千草さんがフィジカルや純粋な力比べだとしたら、要さんの試練はメンタルや精神的なものです」
「メンタル? 割と強いと思うけど?」
「精神的なタフさとは別種です。ルーツの力、貴女の場合は雪女の力をより精密に操り、今の自分に取り込み直すという表現が的確でしょう」
力を取り込み直す、かぁ。また難しい話だなぁ。頭がただでさえ動いてないからさ。難しい話は出来るだけ避けて欲しいんだけど、まぁそうもいかないよね。
魂の話は勝手に難しくなるよねぇ。普通じゃないことだしね。とりあえず話だけは聞かないと。
「同じ魂と言っても、貴女のルーツの雪女と、要さんはあくまで別人です。既にルーツである雪女のかたは貴女に協力的ですが、逆に貴女が力を引き出せるようになればなるほど、雪女の方の力と意思も大きくなってしまうのです」
「同じ魂の中に意識と力が2人分出来てしまっている感じよ。本来ならあり得ない魂の挙動でかなりの負荷が魂にかかっているの。アンタの頭が回ってないのはそれが原因ってわけ」
ひとつ分の陽だまりにふたつ分は入れないってことか。確かにそりゃ無茶だよね。だから、一人分にする。取り込むって形でね。
「千草さんの行っている試練である調伏もこちらで魂の写し身を作り、勝者が敗者を取り込むことです。ルーツを知り、自分の潜在的な力に触れるという意味もあります」
「先にそこに触れてる私には調伏って工程は要らないってことだ」
「えぇ、何より貴女の中の雪女としての意思は貴女に非常に好意的です。でなければ、とっくの昔に大変なことになっています」
は~、知らない間に助けられてたんだ。知らなかったな。まぁ喋る方法も無いしね。魂をどうこうするなんて、真白ちゃんの『繋がりの力』でも無理なんじゃないかな。
あれって多分、別々の魂を繋げて、力とかを共有するって力だと思うし。
「貴女にやってもらうことは対話と吸収、あるいは協調です。これはこれで難しいですよ。時間の掛かり方だけで考えれば、おそらく貴女の方がかかります」
「なんか工夫はあるの?」
「貴女が魂の内に飛び込むしかありませんな。こちらで手段は用意します。出来るのはそこまでです」
千草のやってることとは確かに真逆だ。どうなることやら。




