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地獄から帰って来た者


引き抜かれた閻魔大王の右腕、そこからこぼれ落ちた何かが人の形へと変化していく。ただし、人の形をしているだけだ。人間じゃないことはすぐにわかった。


脚が人間のそれではないのだ。動物によくある逆関節と通称されるやつで、関節が人間の膝とは逆方向に曲がっているのが見える。


そして何より、背中の翼と赤みがかった顔に長い鼻。


「――まさかまさか、地獄とは言え今一度肉体を得ることがあろうとは思わなんだ」


しわがれた声と真っ白な口ひげを撫でながら現れたそれはまさしく天狗と呼ばれるモノのそれだった。


「これが、私のルーツ……」


「ええ、貴女の魂が幾度となく繰り返した転生の中で最も古く、そして最も強い力をもった存在。『鞍馬の天狗』、またの名を『僧正坊』。かの源義経を育てた大天狗が貴女のルーツです」


震えあがる。源義経?鞍馬山の天狗? 私でも聞いたことがあるくらいの有名な存在。源義経の幼い頃、牛若丸と呼ばれていた頃に鞍馬山で彼に剣術のイロハを叩きこんだ張本人。


つまるところ、超のつく武人であり、大妖怪。それが自分のルーツの一つだと示されて、思わず動揺する。

だってそうだろ。星の数から一つの星だけを選ぶくらいの天文学的数字の中で自分ですら知っている何かが自分のルーツだと言われたら驚いて動揺の一つくらいだってする。


「彼を打倒してください。それが私から貴女への試練です」


「……ははは」


閻魔大王はそれを倒せ、そう言って来た。簡単ではないとは思っていたが、まさかここまでとは。


「なにゆえ此処に呼ばれたか。問うてもよろしいか?」


「えぇ、鞍馬の大天狗。こちらの彼女は貴女が転生を繰り返した存在です」


「ほほぉ、儂が生まれ変わると随分と麗しいおなごになるのだな。して、そのおなごと何かすれば良いのだろう?」


「彼女と戦ってください。本気で」


目つきが変わった、雰囲気が変わった。笑っているだけのオヤジが纏う雰囲気がまるでヤクザ者が纏うようなザラザラとして殺気立った戦意に変わる。


ギラついた視線が私を舐めるように舐るのを感じながら、天狗はニヤリと口元を歪めた。


「それをして、儂に何かあるのか?」


「勝てれば再び生を与えましょう。彼女の身体で、になりますが」


「……ぐわははははっ!! 結構、結構!! その話、乗った」


受け止めた剣閃はほぼ勘だった。速い、強い、鋭い。たったひと振りを受け止めただけだが剣術の実力は確実に負けていることをたった一度の鍔迫り合いで理解する。


押し込まれながら、足が地面を滑る。踏ん張るだけでは止まれない。それくらいの強い、バカげた膂力だ。

例えるなら碧の馬鹿力に舞のスピードと朱莉の鋭さが同時に来ている。


特に馬鹿力と鋭さはその二人を超えている。それくらい馬鹿げていた。


「ぐっ……!!」


「ははははは!! 流石は儂が転生した者だ!! 剣の腕は中々あるようじゃな!!」


鍔迫り合いから押し返すどころか迂闊に退くこと出来ない。引いたら最後、このジジイの刀の錆になるのは私だ。


目の前で楽しそうに高笑いしている当のクソジジイだが、楽しいのはお前だけだ。私はちっとも楽しくない。

ふざけた難易度の試練だと唾を吐きたいところだが、それを口にした瞬間に試練も終わる予感もする。


閻魔大王は優しいが甘くない。弱音を吐けばそれでお終いだ。私には目の前の天狗を倒すこと以外に方法は無い。


「牛若丸と遊んでいた頃を思い出すわい。お主はあのわっぱよりも儂を楽しませてくれるか?」


「知るかっ!!」


無理矢理蹴り飛ばして、鍔迫り合いを終わらせる。何も無しで戦えば負けることは確実。勝つためには最初から全力だ。

『鷹』のメモリーを構え、Slot Absorberへと装填しようとすると。


「それは没収です」


手の中にあった『鷹』のメモリーが姿を消す。閻魔大王の仕業だ。舌打ちをしながら『翠剣』を構え、もう一つの手段を使うことにした。


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― 新着の感想 ―
「それは『貴女の』力では無いので没収です。貴女自身の力で勝利してください。」ってことですね。 魔法少女としての力は、本人の能力だからセーフでも、他人の力を借りたものは全て没収される、と。 「新な力を手…
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