地獄から帰って来た者
「おい悠。そいつらはこっちの事情は知らないんだから混乱させるようなことを言うな」
「あれ、説明してないの? 私が呼ばれたからてっきり説明してると思ってたんだけど」
「余計なことを言わなきゃいいだけだったんだよ」
はー、めんどくさいと髪をガシガシと掻く郁斗さん。何やら複雑な事情というのがあるらしい。
既にややこしいことにはなっているので時すでに遅し、というやつだが。
「説明、いるか?」
「軽くはしてもらえると納得はし易いですが……」
だよなぁ、と天を仰ぐ郁斗さん。申し訳ないがここまで来て説明無しというのも難しい。というか、気になり過ぎる。
全容とまではいかないが、端的にだけでも説明があれば納得が出来る。
逆を言えばそれだけでいい。事細かに話されても理解出来なさそうな気がするからな。
「んー、まぁ物凄く簡単に言うとパラレルワールドから来た高嶺 悠が私ってところかな」
「パラレルワールド、ってあれですよね。もしもの世界」
「そうそう。私と郁斗はそこから来てるんだよね」
既に話がぶっ飛んでて理解に苦しむ。交わらないからパラレルワールド。並行世界なんじゃないのか?
というか、郁斗さんもその並行世界の住人なら、元々私達が知っている悠さんはいったい……。
「あー、悪いがその部分が一番ややこしいから省略する。1から100まで説明しなきゃいけないからな」
「あ、はい」
そう言われたらこちらとしては黙るしかない。郁斗さんが嘘や適当なことを言うとも思わないし、何より事情があるのだろうと察する。
でなければわざわざ並行世界からやって来て悠さんのところに来るなんてことはしてないはずだ。相応のリスクもあるだろう。
何せ、世界を渡るリスクは私達も知っている。死にかけたわけだからな。
「まず悠と悠は同一人物だ」
「並行世界の同一人物って事ですよね? 悠さんが女性の世界線、そこからお二人は来たと」
「具体的には違うんだけどそこは省略でよろしく」
そこもややこしいのか。いや、もう突っ込まないことにしよう。気にしたら負けだ。真白みたいに性別が変わってしまったなんて話だったらそれこそ1~100まで聞かないといけなくなる。
便宜上、悠さんは元から女性という認識で話を進めさせてもらう。
因みに要は話を理解することを諦めたのか氷の魔法でミニチュアの地獄の街並みを作るストリートパフォーマンスをしていた。何をしてるんだお前は。
「別世界の同一人物が出会うと色々ややこしくてな。世界からのお咎めを喰らうんだ」
「バグ修正とかウィルス扱いされてしまうんですね」
そういうことだと郁斗さんは頷く。その辺の話は真白関連の話でも聞いたことがある。真白の場合は世界のバグ修正扱いで性別や色々な部分が強制的に上書きされてしまったんだったか。
悠さんの場合は同一存在の増殖なのでウィルス扱いなのだろう。存在ごと消去されかねないとなったらこの2人は同じ世界にいるわけにはいかず、悠さんの方は地獄までしかやって来れないという訳だ。
それに確か悠さんは笠山の地から離れられないと言っていた。これは自分の心の持ちようとか、役割的な話ではなく、おそらく物理的に離れられないのだと考えている。
その土地との契約、みたいなものだろう。笠山という魔力のホットスポットで魔獣を討伐し続けるための力を得る代わりに、あの人は笠山から離れられない。そういうものだ。
となると、郁斗さんはそうではないとなる。私達の目の前にいる郁斗さんは悠さんの世界から来た郁斗さんらしいからな。
「……では、私達の世界の郁斗さんは?」
「死んだよ。魔獣に襲われてな」
あぁ、やはりそうか。そうでなければ私達の世界に郁斗さんが2人いることになってしまうからな。




