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地獄から帰って来た者


「意外と普通なんだな」


郁斗さんに先導されながら地獄への門を潜って開口一番の言葉はこれだった。


「そりゃそうだ。この辺は地獄の中枢。まぁ、地獄を管理する側の街の中だからな」


ルーツの力を手に入れるため、郁斗さんと悠さんのところを訪れた私達は、地獄へと足を踏み入れたわけだが、その街並みは普通というか、まるで江戸時代のような雰囲気。


木造の和風建築が軒を連ね、鬼と呼ばれる大小様々な角を生やした人々が道のあちこちを闊歩している。


「なんでぇ、(ハザマ)のあんちゃんじゃねぇか。珍しいな。しかも女連れで」


辺りをキョロキョロと見渡していると1人の鬼に話しかけられる。


小柄な、人間で言うと50代くらいの印象を受ける猫背の鬼だ。

(ハザマ)というと郁斗さんの名字。知り合いなのだろうと顔を向けると郁斗さんも馴染みの様子で手を上げて応えていた。


「野暮用さ。弟子の頼みとあっちゃ断れなくてな」


「ははぁ〜、成る程な。確かに変わった嬢ちゃん達だ。ま、無茶すんなよ。現世に戻れなくなっても誰も保証してくれねぇぜ」


鬼のおじさんと郁斗さんに指を指されたので、要と2人でぺこりと頭を下げる。


見てくれはやはり鬼なので物騒で怖いものだが、どうも面倒見の良い人らしい。

忠告をひとつもらい、気を引き締める。ここは普通に見えて死後の世界。


ここでは異端なのは私達。何かのキッカケ一つで私達は現世に戻れなくなる可能性がある、ということだと認識する。


「ご心配、痛み入ります」


「気を付けます!!」


忠告は素直に受け取ろう。少なくとも地獄の住人に対してわざわざ嫌味な対応をする理由はひとつもないしな。


頭を下げてお礼を言う私と対照的に元気に手を挙げて返事をする要。


その差が面白かったのか、ケラケラと笑ってから鬼のおじさんも手を挙げて応えてくれる。


「ケケケ、元気で良いこった。んじゃあな、間のあんちゃん。また飯でも食おうや。高嶺の嬢ちゃんも連れて来いよ」


「おう、気にかけてもらって悪いな」


そうして、鬼のおじさんとは別れた。気のいい人なのは短いやり取りでわかった。


何というか、親戚に1人はいる気のいいおじさんって感じだ。

何もわからない今の私たちからするとああいう人が地獄にもいるとわかると少し安心する。


「……ん?」


「高嶺の、嬢ちゃん……?」


そこまで来て違和感に気がつく。今、あの人は間違いなく高嶺の嬢ちゃんと言った。


高嶺と言うからには悠さんのことだろう。今は笠山の地で私達が帰って来るのを待っているはずだが、あの人は当然男だ。


しかもいい大人の、だ。少なくとも嬢ちゃんと呼ばれるような人ではない。

線こそ細いが身体はしっかり筋肉質でバキバキに腹筋が割れてるような人なんだが……。


「お、いたいた!! おーい、郁斗〜!!」


「遅いぞ、(ハルカ)。お前がいないと色々始まらないんだぞ」


「嫁を1人でほっぽっといて言うのがそれぇ? 私、鬼じゃないから地獄の門安定させるの一苦労したんだからね?」


やって来たのは可愛らしい女性だった。恐らく、エルフ族の女性。

だが、格好は現代的かつ実用的な格好だ。パンツルックに薄手のコートとショートブーツを履いていて腰には二振りの刀の柄が見える。


相当、手練れの剣士だ。凄まじく強いと勘が言ってくるが、それ以上に衝撃的なことは。


「え、郁斗さんって奥さんいたんですか?!」


「ん? あぁ、いるぞ。言う必要も無かったから言ってなかったが。あとなんだ、ちとややこしいんだよ」


どう説明したもんかな、と頭を掻く郁斗さん。まさかこの人に奥さんがいたことに驚きだ。


いや確かに彼女の1人もいないなんておかしいくらいには美形な人なんだが、そんな気配は微塵も見せていなかったから驚いた。


「千草ちゃんと要ちゃんだね。私は高嶺 (ハルカ)。悠久の悠でハルカ。郁斗とは夫婦ってヤツです。よろしくねー」


手をひらひらとさせている(ハルカ)さんはおおらかというか、裏表の無さそうな感じのする人だ。


実直、とでも言えばいいのか。そういう雰囲気を感じる。

高嶺姓ということは(ユウ)さんの姉妹か親戚の方だろうか。


「2人の噂は郁斗から聞いてるよ。魔法少女がいる時間軸から来たんだってね。そっちの私ともいい勝負してるなんて、若いのに中々やるねぇ」


こちらがそう予想を立ててると次から次へと知らない言葉が飛び出して来る。


時間軸? そっちの私? 何が何だからわからず首を傾げるしかない。

既に要は脳内処理が仕切れずフリーズしている。


どういうことかと郁斗さんに説明を求めるとそっちはそっちで頭を抱えて溜め息を吐いていた。

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