任務失敗
どうしたものかと頭を悩ませていると、アズールがにんまりとした笑みでルビーの後ろに立ち。
「なんだよルビー、頭を撫でられてるのが羨ましいのか?それなら姉ちゃんが撫で回してやるよ!!」
ルビーの頭に手を置いたと思ったらわしゃわしゃと犬を撫でるような要領でルビーの頭を撫でまわす。
というか、完全に犬猫を扱う時のそれだ。撫でるたびにルビーの髪が乱れてぼさぼさになっていく様子は少々見ていて面白い。
「なっ?!だ、誰もそんなこと言ってないでしょう?!ちょっとやめっ、ボサボサになるでしょ!!おいコラ話聞けバカ!!」
「うりうりうりー!!ちょっと前まではお姉ちゃんって呼んでくれたクセに中学入ったら生意気になりやがってこのやろー。姉ちゃんは寂しいぞー」
「やめろって言ってんの!!!!!!!!」
「ぷっ、ルビー、アメティアお姉ちゃんですよ~」
「バカにしてんのか!!!」
アメティアも加わってバカ騒ぎする様子は、いよいよ本格的に陰鬱とした雰囲気を吹き飛ばすのにはちょうどいい明るさだった。おかしくて涙が出るほど笑っている。
「ノワールもー!!」
「よしよし、ノワールも頑張ったわね」
大人しくしていたノワールもこの騒ぎに明るい気持ちになったのか、私とフェイツェイの元へと飛び込んで来た。
要望にお応えして撫でてあげるとえへへーといつもと変わらない笑顔を返してくれた。可愛いなぁ。
「……なんだか、三姉妹が二組いるみたいね。私だけ一人っ子かぁ」
ぼやきながら微笑まし気に見ているウィスティーさんも、明るくなった雰囲気に一安心と言った様子で、周囲の大人たちもホッとしたような印象を浮かべている。
暗い雰囲気と言うのは誰だって良いとは思わない。任務は失敗だけど、それをズルズル引きずるのはさっきも言ったように良くない。
この失敗を次の決意に変えなくては。委員長のためにも、ぐずぐずしている暇はない。
「良い目をしているねアリウム。攫われた彼女が、フェイツェイ、貴女の友人だと言うことは秘密裏には聞いています。……改めて言います、ごめんなさい。私のミスよ」
そう、次を誓い、次こそはと決意を深めていると、近付いて来たウィスティーさんが頭を下げる。
彼女は自分を責めがちな性格のようだ。最強と言えども心まではそうではないと言うことだろうか。
「いえ、誰のせいということは無いですよ。悪いのはあの男たちです。あいつらが全て悪い、そうじゃないですか?」
「だな。彼女を助けられなかったのは確かに心苦しいけど、それがウィス姉さんのせいだとは思わない。そういうところはウィス姉さんの悪いところだと思う」
「……そう、ね。反省はともかく後悔のし過ぎは良くないわね。割り切らないと、先輩たちにも散々注意された悪癖なんだけど、中々治らないわね」
私達にそう言われて、ウィスティーさんは目を細めて笑う。先輩、と言うのはファースト世代の彼女の中でも最初期にいた魔法少女達の事だろう。
懐かしむようにも言う彼女は、見た目年齢相応の悩める女性、と言った感じだった。
「それが、ウィスティーさんの良いところでもあるんじゃないですか?」
「貴女と話してると、先輩達と話してる気分になるわね。私の方が年上のはずなのに、私が教えられているし」
「背伸びするのが得意ですからね、コイツ」
「ひっぱたくわよ」
茶化すフェイツェイに肘打ちを打ち込みながら反論すると、ウィスティーさんはケラケラ笑いながら目じりに涙を浮かべる。彼女も肩の荷が少し降りたようだ。
最強故の悩みなのかも知れない。大きな力や影響力と言うのはそれだけで責任を伴う。それを若い彼女が振るう事がどれほどのプレッシャーなのかは計り知れないものだと思う。
藤色の髪を整えながら笑う彼女に釣られて、私達も笑っていると
「お待たせしましたぁっ!!!!」
更に騒がしい魔法少女、疾駆の魔法少女 クルボレレがスライディングで盛大な砂埃を立てながら、私たちの元にやって来た。
元気なのは大変よろしいけど、元気過ぎるのも考え物だと思う。なんで人がいるど真ん中で盛大に砂埃を立てるかな。ゲホッゲホッ。




