獣の正体
「結局、ショルシエの最終目的はなんなのでしょう。世界をめちゃくちゃにするのが目的だとしても、その先に何かなければやる意味がありません」
「さぁね。何度も議題には上がったけど、結局のところは分からずじまいだよ。狂人と割り切るか、本人にしか知るよしのない真相ってのがあるのかもだけど」
廊下を歩きながらショルシエの目的について話をする。何度も何度も考えては見たけど、最後は大体わからないで結論が付いてきたことだ。
普通、何か破壊行動。つまるところテロ行為をする側には明確な理由がある。
自分たちの主義主張を暴力的な方法で押し通すためだったり、対立する相手への攻撃だったり。
攻撃や暴力は手段であって目的ではない。そこが目的な存在はイかれた狂人か何かだ。私達の思考で理解することは難しい。
ショルシエがそこに属してるか否か。論点はそこだろう。
世界そのものの破壊が目的。そうだとして、破壊したあとはどうするのか。
その先が無ければ意味がない。世界の王になるというのなら、とっくの昔に帝国を乗っ取りその玉座に着いているハズ。
だけど、その気配は無い。だから私達はショルシエを破壊だけを目的とした狂人側として認識しているんだけど、それもイマイチしっくりこない。
破壊が目的ならもっと杜撰でいいはずだ。それなのにショルシエの行動の端々には明らかに何らかの目的が見え隠れしている節がある。
矛盾の塊のような存在には3年前にも苦しめられた。その特性は今も変わらない。
それを知るにはショルシエに直接問い質す以外方法は無い。それが出来ないから中々事態は前進しないし、それどころかこちらが手をこまねいている間に今回のことが起こったんだけれどね。
結論を言えば、私達は慎重になり過ぎたのだ。慎重に慎重に警戒に警戒を重ねて長考を繰り返す詰将棋のような事をしているうちに盤面事めちゃくちゃにされた。
「ひ、姫様。お身体は大丈夫ですか?」
そうこうしているうちに怪我人を運び込んでいるブローディア城の大広間へとたどり着いた。街の医療従事者やレジスタンスの団員、魔法少女協会から出向して来ている人などが怪我人への対応に追われており、辺りは独特な臭いが立ち込めていた。
その中で近場の比較的手の空いていそうなレジスタンスの団員に声をかける。私のことを聞いているのだろう。
心配をされたけど、私よりも今優先すべきはここにいる多くの患者だ。
「私は大丈夫。それよりも怪我人の状況を教えて。出来るだけ重傷の患者を私が診る」
「わかりました。こちらへ」
特に私が診るべきは重傷の患者だ。いつもの私だったらずっとここで治療を施しているだろうに、私はホントに何をしているのだろうか。
この怪我人で溢れかえった大広間を見て、自分の愚かさに唇を噛む。
「……姫様?!」
「動かないで、傷に障るわ。……足をやられたのね」
重傷患者を集められたスペースはまさに火の車だった。これでも、容態の落ち着いた人達が集められている。
事件から一週間も経っていれば、体力の持たなかった人達は既に亡くなってしまっているだろうから。
私がまず腰を下ろしたのはレジスタンスの団員である男性魔族だ。右足のふくらはぎから下が欠損している。
元々あっただろうその先は周囲に無い。時間も経ち過ぎているし、完全に治療することはもう出来ない。せめて、傷口を塞いで痛みをすぐにとってやることくらいが私に出来ることだ。
「申し訳ありません。このような事態の時に、私の不徳の致すところがあったばかりに……」
「貴方は何も悪くないわ。相手は、同じレジスタンスの?」
「……ハイ。同僚の友人に。まさか、このような事態が起こるとは思ってもいませんでした」
足に治癒魔法をかけつつ、身体の隅々を検査。そうしながら彼の身に何が起こったのかを聞いていく。
彼は辛いことに友人の妖精に右脚を切断されたらしい。それを聞いて、ただただ目を瞑る。
どうして、こんなに酷いことが出来るのか。起きてしまったのか。
私はどうしてすぐにこの場に来れなかったのか。自分の事しか考えられなかった愚かさ胸に深く深く刻みつける。
また、私は自分の使命から逃げたのだ。その罪をどう償うべきだろうか。




