獣の正体
「……真白。アンタ大丈夫?キツいなら一旦休んでた方が」
「ううん。大丈夫。部屋に籠ってる方が、気が滅入りそうだから」
そして妖精の正体が獣であるとわかったことで起きた種族間の軋轢は私達。特にレジスタンスに甚大な被害と組織の崩壊をもたらそうとしていた。
当然のように多種族で構成されていたレジスタンスの約1/3ほどが妖精であり、団長と副団長であるパッシオとカレジが妖精だ。
私に襲い掛かったパッシオもそうだし、カレジも暴走し少なからず被害を出している。パッシオもカレジも幸い人的被害を出したわけではなく、パッシオは私に、カレジは美弥子さんらによって鎮圧されたそうだけど、組織のツートップが暴走をしたという事実は消えることは無い。
守る側が被害を出したという衝撃が残した傷跡はそう簡単に治ることも拭うことも出来ない。自分達の信じていたモノが瓦解したレジスタンスは指揮系統が壊滅状態。
『魔法少女協会」が代理で何とか形を保たせているが、隊員たちの不安を拭うには至らない。
「パッシオ達が私達と接触を断っているのも堪えるな。妖精は貴重な戦力だ、抜けた穴を埋めるのはほぼ無理だ」
【人的被害も相当です。私達の中でも厳しい精神状態に追い込まれている面々が数人います。そちらのケアも急がないといけませんが……】
この会議には欠席者が数名いる。
まず舞さん。こちらはあまりこの話には関係無い。防衛を担当している『轟きの遺跡』での妖精暴走の被害への対処に追われての欠席だ。
基本的に人手不足の遺跡の発掘調査の中での事件なので彼女が出払うわけにもいかないし、彼女の性格的にもそれは難しいだろう。
次に碧ちゃん。彼女は妹分のサフィーリアさんの裏切りにより『隷属紋』による洗脳を受けた。
その治療や精密検査、近しい者からの裏切りという精神的ショックの大きさ。
それ以前からも彼女は他の面々に比べるとモチベーションなどの精神面での不調があるのは私たちも密やかに認識していたことだ。
そこに来て、可愛がっていた妹分の裏切りだ。かなり精神的にキているのは誰だってわかる。
最後に真広だ。彼はスフィア公国に滞在し、治安の維持や情報の収集などを行なっていた。
妖精の暴走事件の際には公国の首都内におり、現場にて鎮圧を速やかに遂行。
その最中、まるで祖父のように慕い、師事していたガンテツさんが戦闘による名誉の戦死という一報を受けた。
真広にとって、初めての近しい人の死だ。本人は大丈夫だと言っていたけど、声を聞く限りではかなりまいっている様子だった。
番長の判断により、一旦気持ちの整理がつくまで療養するよう指示を受けて会議には不参加となった。
そして、私。こうしてこの場にいるものの殆ど話の内容が頭に入っていない。
朱莉にも心配される始末で、番長にも療養を勧められたけど、私の場合は1人でいた方が危ないと判断してこの場に人形のように座ってるだけとなっている。
原因は簡単。パッシオについてだ。
「パッシオのバカにも文句を言いたいんだがな。何がこれ以上は迷惑をかけられないだ。いない方が迷惑だ」
「ちょっと千草」
「事実だ。今回の件はヤツの、妖精のせいではない。ショルシエのせいだ。全員で打開策を考えるのが正解だろう。何より、真白に唐突に、しかも直接別れを言うあたりがデリカシーがーー」
「千草っ」
朱莉に嗜められて、千草がバツの悪そうな顔をして黙る。言い過ぎた、というのは自覚があるらしい。
言い過ぎてしまうくらい、苛々しているのだろう。一本筋が通った性格の千草は曲がったことが嫌いだ。
ショルシエのこともそうだけど、碧ちゃんのこととパッシオのことにも不満があるのは見て取れる。
1週間前、妖精の暴走は幸いにも1時間ほどで収まった。
それが幸いだったのか、地獄の1時間だったのかは捉えようによるけれど出た被害はさきほども言ったように甚大だ。
パッシオはその件について責任を取ろうとしているのだろう。
彼は私に「もう一緒にいられない」と一言だけ残して以来、姿を見せていない。
レジスタンスの妖精達を引き連れて、どこかに行ってしまったのだ。




