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任務失敗

まず結論から言う。今回の任務は、失敗だ。


委員長の奪還も出来ず、奴らの目的も把握出来ないまま逃亡されたであろうこの結果はどうしようも無いレベルでの失敗だと言わざるを得なかった。


幸い、あの男があの地下研究所を爆破し、落盤を起こさせた大惨事においてもこちらの魔法少女に大きな被害は出なかった。

ありったけの魔力を注ぎ込むことで展開された障壁は、落ちて来た岩石をなんとか受け止め切り、破絶の魔法少女 ウィスティーにより救助された。


よもや崩落した岩石を吹き飛ばすとは誰が考えるだろうか。少なくとも私は度肝を抜かれた。規格外が過ぎるでしょ……。


「まずは皆が無事で良かった、それに尽きるわ。……結果は伴わなかったとは言え貴女達は可能な限りの最善と最良を引き出していたと私は思う。敵がそれ以上に上手だったのと、私の采配ミスよ。貴女達に不備は無かったわ」


簡単な治療と診察を魔法庁の医療班から受ける私たちの視線を集めて、そう言うのはウィスティーさんだ。


藤色の薄い紫の髪と、白と同じ薄紫の軽鎧に身を包んだ彼女の印象は大人の女性、だろう。これが日本最強の、世界においてもトップクラスに位置する魔法少女だと言うのだから、見た目と言うのはこと魔法少女においては全く役に立たないのがよく分かる。


そして口にした言葉は、私達が責任を感じることは無いと言う旨の内容。この中で最も立場が上である彼女故の、全体指揮をした責任者としての、そして私たちが自責の念に囚われないための配慮だと思う。

すまなかった、と頭を下げるウィスティーさんを見て、私達はかける言葉も見つけることが出来なかった。


誰が悪かったとか、何が悪かったとか、そういう話ではない。間違いなく、私達はその場で可能な最善を尽くしたと思う。

それを後から考えても仕方がないのだ。反省はしても、後悔は出来るならしない方が良い。


大きく後悔することはそのうち心を蝕む。これは医療の現場でも経験があることだった。


「だが、何の成果も無かった訳ではないわ。君たちが対峙した男の言う通り、この研究所がここまで早く見つかったのは奴らにとっても想定外の出来事だったのは確かなみたい。崩落した研究施設からは、魔力に関すると思われる資料がいくつか見つかっている。こんな物も、出て来たし」


「これは……」


「確か、Slot Absorber(スロットアブソーバー)だっけ?アイツが左腕に着けてた、これよね」


ウィスティーさんから投げ渡されたのは、奴が腕に着けていた物と同一のものだ。

腕時計よりも少し大きいサイズで細長い。


左手首に付けると体の内側の部分に向く方に、カートリッジ状の、恐らくはあの男と同じようなメモリーカードのようなものを差し込むための挿入口が窺える。


ルビーが取り出した破損したSlot Absorberも同様の形状だ。


「運よく一つだけが外的破損が見受けられずに見つかったわ。他は岩石に押しつぶされてぺしゃんこ。他の資料も断片的だし、掘り出すまで時間が掛かるでしょうけど、間違いないほど確かな奴らの情報よ」


「そう、ですね」


「釈然とはしねぇけどな」


「何より心配なのはあの隠れの魔法少女よね……」


確かにそれは確かな情報だ。それには間違いない。ただし、委員長は奴らに何かをされ、自意識を喪失している状態で奴らの手に落ちてしまった。


その大きすぎる一点が、私の心に影を落とす。アズールの言うように釈然としない。納得できない。今すぐにでも、委員長を探しに行きたい。でもアテが無い上に周囲は既に完全な夜だ。これ以上の街の外での活動は危険しかない。


冷静に働く頭と、それを振り切ってでも動きたい心がせめぎ合いながら、あくまで冷静に努めようとする私の頭を、そっとフェイツェイが撫でる。


「あまり気に病むな。と言うのは無理な話だけどな。私だって今からでも飛び出したいが、そうも行かない。委員長は必ず連れ戻す、そう誓うしかない」


「……そうね」


フェイツェイの言う通りだ。猪突猛進な彼女でさえ、我慢をしている。何が何でも委員長を助ける、そう心に誓って、あの男たちを今後も追い続けるしかない。


そう言い聞かせながら、撫でるフェイツェイにギュッと抱き着く。助けられなかった、その気持ちがどんどんと大きくなる。

悔しい。どんなに理屈で考えても、やっぱり悔しいものは悔しい。


友達を、助けられなかった……っ。


そうやって泣きそうになる感情をなんとか抑え込んでいると。


「……なぁんかアンタ達、妙に仲良くない?フェイツェイはアリウムに妙に優しいし、アリウムはフェイツェイに抱き着いてるし」


「え?そ、そうかしら?」


「あー、まぁ、色々あってな」


「何よそれ。さては変身前の状態でも仲が良いとか言わないわよね?私達ですら変身前の姿知らないのに」


ぶっすーっとした表情でこちらを睨み付けてくるルビーにそう言われて、こちらはたじたじだ。しかも中々に鋭い。

変身前の状態で仲が良いどころか、一つ屋根の下で姉妹同然の生活をしていると知ったら、拗ねるどころの話では済まなさそうだ。


ただまぁ、陰鬱な気持ちは薄れたのはありがたかった。いつかこの子達とも、変身前の姿で出会いたいけどどうだろう。難しいかな?

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