千夜祭
届くハズの無い星の弾丸。信頼できる仲間から聞こえて来た『繋げる』という言葉。
私にとってある種特別な言葉でもあるそれを聞いて、身体はほぼ反射でスマホ型の魔法具『イキシア』を操作する。
ここ数年ずっと使っているスマホを操作するのに画面の注視なんてほぼいらない。
そもそも連絡先のアプリさえ開けてしまえば、彼の連絡先は一番上に来るように設定してある。探す必要なんてないのだ。
だから、このほんの一瞬出来た隙でも私には十分な時間だった。
「『繋がって』!!」
【Leaf vein!!】
「『情熱』!!」
反応した『イキシア』をパッシオに向ける。これで状況が変わるなら、変わって!!お願い!!
「『Blossom engage』っ!!」
決死の思いで口にしたいつもの言葉。『繋がりの力』を使うための口上を口にして、私とパッシオに魔力のパスが繋がる。
「っ?!」
「なにをっ!?」
びくりとパッシオの身体がその場で痙攣してもがき始めるけど、それは一瞬だ。
荒れ狂う獣の姿からみるみるといつも通りの姿へと戻って行き、魔力がどんどんと私へと流れ込んで来る。
やっぱりその魔力もいつものパッシオの暖かくて心地のいいモノじゃなくて、どろどろとしていて一瞬受け取るのを躊躇ってしまいそうな感じ。
でもそれでもパッシオを魔力をしっかりと受け止めるとその端から魔力はいつも通りのパッシオの魔力へと変わっていくのを感じる。
まるで泥水にフィルターをかけて浄水でもしているかのような。そういう感じだ。
私の中に入ってくる頃にはパッシオの魔力から嫌な感じは完全に無くなっている。
それと同時にパッシオの姿戻っていって、いつもの大きなイタチのような姿へとこちらも完全に戻っていた。
「バカなっ?! たかだか普通の妖精が獣の力をどうこう出来るわけがーー」
5本あった尾のうち3本をパッシオに食べられたベンデが驚愕の表情でこちらを見ている。
倒れているパッシオの尾の数は8本に増えたままだ。尾の数はイコールで妖精の強さになる。
ベンデの尾を奪った、ということになるんだろうか。
妖精同士の尾の奪い合いなんて聞いたことも見たこともないけど、元に戻らないということは奪える、あるいは『獣の力』とやらでパッシオの力が増えたと考えていい。
まぁ、そんなことは後回しだ。
「『チェンジ』!!」
「しまーーっ!!」
「『フルール・フローレ』ッ!!」
最大のチャンスを逃すわけもない。押し倒されていた地面から跳び上がるように身を翻して『イキシア』を掲げる。
パッシオと繋がった状態からの変身からか、身体の前面に輝く紋様がメラメラ燃える薔薇へと変化している。
まるで私の心のうちを表すかのように。
「アリウムフルール・ロゼ。ーー貴方を守りに来ました」
私の大切な人を好き勝手してくれた落とし前、着けさせてあげるわ。
「待っててパッシオ。すぐ終わらせるから」
「舐めるな!!『魔法具解放』とやらもしてない貴様に負ける道理など!!」
そこまで言って、ベンデの言葉は止まる。きっと止めざるを得なかったんだろう。
それもそうだ。たった一瞬のうちに自分が圧倒的に不利な状況になっていることを見せ付けられれば誰だって黙る。
「『真紅の庭園』」
燃え盛る荊が周囲を取り囲み、私に絶対有利な戦闘フィールドを作り上げる。
何処からでも灼熱の荊の棘と、燃え盛る花弁がベンデを襲える状況で私と戦うのだ。
「ただで帰すと思わないことね……」
自分でも驚くくらい低い声が口から出ている。冷静になれと思いながらも、お腹の奥からマグマのようにふつふつと煮えたぎるモノが私を突き動かす。
「貴女だけは赦さないんだから」
私の後ろに鬼でも見えてるんじゃないかしらね。
震え上がるベンデを見ながら私は上段混じりにそんなことを思っていた。




