千夜祭
「……」
「――ちっ!!」
何も言い返さないアズールさんにフェイツェイさんは隠しもせずに大きく舌打ちをして、投げ捨てるようにして手を離す。
そのまま不機嫌そうにこちらへとズカズカと歩いて来ると私の襟首を掴んだと思うと空中に一瞬だけ放り投げられたかと思ったらまさかのお姫様抱っこで抱えられる。
何がどうなってそうなるんだというツッコミもそこそこに、フェイツェイさんが普通にイケメンでドキマギさせられる……、ってそんな悠長なことを考えている場合じゃない。
捕まえたピリアとサフィーリアさんを連れて行かないと――。
「って、いない?!」
氷で拘束されているハズのピリアとサフィーリアさんの姿がいつの間にか無くなっていて、私は思わず大声をあげる。
フェイツェイさんとアズールさんがケンカしているのを見ているうちに逃げ出したんだ。
「逃げちゃいましたよ?!」
「ん? あぁ、そうだな」
「そうだなって、良いんですか?!」
逃げた二人を探さないといけないというのに、フェイツェイさんの反応は随分と薄い。大して気にした様子もない。別にどうでもいいという感じだ。
貴重な情報源だし、サフィーリアさんに至っては裏切り者だ。逃がしていいわけがないと思うんだけど……。
「目印は付けた。だろ?グレースア」
「うん、問題ないよ。誰か、影属性を持ってる人が連れて行ったのは見えたけど気付いてないと思う」
どうやら二人には何か策があるらしい。ピリアとサフィーリアさんを連れて行った誰かはショルシエの関係者だとして。その二人に目印、を付けたということだけど。
「あ、居場所の炙り出し」
「そう言う事だ。奴らは搦め手を使って来る印象があるが、実際に蓋を開けてみると膨大な魔力量を使った力押しの強引な手段な場合が多い」
「逆に自分達が搦め手を使われるのは苦手なんだよね。力押しでこっちがジリ貧な時はそういう事をする余裕はないんだけど」
「今のところ、ショルシエの分身体を相手にするくらいだったら個人で止められるからな。小細工の一つや二つ仕掛けるくらいの余裕はある」
特にあの二人はショルシエの分身体ってわけじゃないからな、と付け加えられた。
つまり今のフェイツェイさんからすればあの二人は全然大したことがない、本気を出すまでもない相手、ってことなんだろう。
分身体は確かアメティアさんが『魔法具解放』をして対等だって言っていたし、クルボレレさんも相打ちにまで持っていったって聞いた。
私達みたいな新人はともかく、歴戦の魔法少女であるフェイツェイさん達が相手するレベルの話。
それに比べれば、ピリアとサフィーリアさんは少し厄介な相手、くらいなんだろうか。
「……無論、さっきの2人が弱いって話じゃない。その辺の一兵卒では太刀打ちも出来んだろう」
フェイツェイさん達の強さを間近で目の当たりにして、何度も再確認するたびにさっき励ましてもらった気持ちが落ち込みそうになる。
自分が役に立っている自信がどんどんと無くなって行く。弱い自分が役に立っているのか、友達の1人も止められなかった自分が、考えれば考える程ドツボにはまるとは分かっていてもそう考えてしまう自分がいた。
「お前はよくやったよ。少なくとも今出来る最高の結果を出しただろう」
「本当に、そうおもいますか?」
「ハッキリ言ってお前に勝てる要素はほぼ無かった。特にサフィーリアとお前のレベルは小学生と高校生くらいの差がある。それを死なないどころか私達が来るまで耐えて見せたんだ。誇っていい。お前はよくやった」
深い奈落の底に落ちて行きそうな気持ちをフェイツェイさん達はいつも引きあげてくれる。
真白さん達もそうだ。どうしてこの人達は自分を引き上げてくれるんだろうと思う。
そして、こうなりたいと強く思う。
「お前達にも事情があるのは何となくわかる。だから後で話を聞いてやる。今は、耐えろ」
アイツみたいに腐るなよ。そう言って、もうすっかり遠くになってしまったアズールさんを顎で指す。
遠巻きに眺めるアズールさんは今も瓦礫の中で座り込んだままで、私が知っているアズールさんはそこにはいなかった。




