千夜祭
斬撃の乱舞により、『人魚』のビーストメモリーから発された魔力を削ぎ落とされるとその中からサフィーリアさんの姿が現れる。
どうやらビーストメモリーを用いた巨大化。少なくともサフィーリアさんの場合は、だけど魔力を鎧のように分厚く纏っているだけみたいだ。
そういえば、確かに私が他に見たビーストメモリーによる見た目の変化はサフィーリアさんにはほとんど無くて、本当に巨大化しただけだったらしい。
巨大化を強制的に解除されたサフィーリアさんはそのまま戦闘不能の状態になったみたいでそのまま地面に倒れ落ちる。
完全に一方的な戦いだった。圧倒的な実力差をこうして見せ付けられると自分が弱いという現実を改めて突き付けられる。
「お前はどうする?」
「ここで歯向かうほど馬鹿じゃないわ。降参よ」
切っ先を突き付けられたファルベガは変身を解き、本来のピリアの姿になって投降の意思を示すために両手を挙げる。
私達の戦いがまるでおままごとだとでも言うようにこの場の戦いの決着は本当にあっさりとしたものだった。
「……凄い、ですね。私達があんなに苦戦した敵をこんな簡単にどうにか出来るなんて」
「思ってるほど簡単じゃないし、あなた達は自分が思ってるほど弱くないよ。さっきの戦いだって3年前だったら苦戦してたと思うしね」
「そうなんですか?」
「そうだよ。3年間、私達結構本気で修業したからね」
因みに私とフェイツェイはもう一段階強くなれまーすとピースしながら言うグレースアさん。
あれ以上に強くなれるとかもうどうなっているんだこの人達は。
でも、そんな人でも何年もかけてやっとこのレベルなんだと思うと無くなりかけてた自信も少しは戻る。
ちょっと前まで沖縄で女子高生していたヤツが何を偉そうにしてるんだ。私が弱いのは当たり前、フェイツェイさん達が強いのも当たり前だ。
その差が埋まることはきっと無いんだと思う。埋まるとしたらフェイツェイさん達が引退してからじゃないかな。
「随分と物わかりのいい奴だ。ショルシエの配下ともなれば、もう少し意地汚いと思っていたが」
「他の奴らと一緒にしないで。私には私のやるべきことがある。そのためにショルシエに乗っかってるだけ。死んだら元も子もないわ」
「成程な。お前は他とは違った立場にいるというわけだ」
「ただし残念だけど、詳しい情報なんてちっとも持ってないわ。ショルシエはいつもただ見てるだけで、私達に何かを要求することはほぼ無いから」
突き付けられた切っ先に怯むことなく会話をするピリア。それを見て、フェイツェイさんは天狗の面を外し、刀も降ろすとそのまま鞘に納めてピリアの下を離れて私達の方へと足を向ける。
「見逃してくれるの?随分優しいのね」
「今ここでお前とお喋りをしているほど暇じゃないんだ。それに、逃がすつもりもない」
いつの間にかピリアの足元は凍り付いていて、地面に固定されている。
倒れているサフィーリアさんも地面に縫い付けるように氷が伸びていて、ちょっとやそっとじゃ逃げられなさそうだ。
『隷属紋』による指示者の意識が無くなったことで、アズールさんも必然的に行動が止まっている。
そこへずんずんと足を進めるフェイツェイさんが懐から何か模様の入った紙のような物を取り出すと乱雑にアズールさんに叩き付ける。
たったそれだけで『隷属紋』がすうぅっと消えていくのが見えた。
アレが『隷属紋』の対抗策、みたいだ。
「うっ……」
「目が覚めたか?」
「フェイツェイ、か。悪かっーーがふっ?!」
意識を取り戻したアズールさんを突然フェイツェイさんが殴り飛ばす。
優しさなんてカケラも無い。魔力も乗せた本気のパンチに目覚めたばかりのアズールさんは避けることも出来ずに吹き飛ばされて、また瓦礫に身体を打ち付けた。
いったい何を、と声を出しかけるけどグレースアさんに無言で制されてしまう。
口を出すな、ということらしい。




