千夜祭
「どうして――」
「そんなものを聞くのは野暮よ、ルミナスメモリー。わかっているでしょ?私が何をして来たのか。貴女はその目で見て来て、そして止めて来た」
それでも口から出てしまう疑問にピリア……。いや、違う。ファルベガはそんなものを聞く意味は無いと突っぱねる。
わかっている。ファルベガが今までして来た所業ってヤツはこの目で何度も見て来て、そして止めて来た。
「私は私の目的を叶えるためならなんだってする。人を騙して、誑かし、都合よく利用して来た。それはこれからも変わらない」
「流石はせ・ん・ぱ・い。私なんかよりよっぽど悪ですねぇ。そうまでして叶えたいこと、私も気になっちゃいます」
「……お姉さま一人をモノにするために悪に堕ちたあなた程じゃないかもね」
「あら、照れちゃいますね」
ファルベガにはファルベガの目的がある。ただし、その手段はたとえそれが残虐で傲慢だとしても彼女は止まる気は毛頭ない。
決意さえ感じる素振りに聞いていたサフィーリアさんはわざとらしく身体をくねらせながら受け答えをする。
そのサフィーリアさんは碧さんを自らの手中に収めるためだけに悪の手先に堕ちた、というのだから野望の規模が大きそうなファルベガとは対照的だ。
代わりにその狂気の度合いはサフィーリアさんの方が上かも知れない。今まで積み上げて来た地位や人望を捨ててでも、彼女は碧さんを自分のモノにすることを選んだ。
頭の中の天秤が壊れているとしか思えない。普通の人じゃそうはならない。たかだかひと一人を手に入れるために自分の全てを投げ捨てるなんて出来ない。
「それじゃあ、止めなきゃ、ね」
「冗談言わないで。そんな身体で何が出来るの?」
ファルベガは止まらない。自分の目的のために必要なことをこのサンティエの街でする。それが何なのかは分からないけど、今までのことからしてロクなことじゃないのは確かだ。
サフィーリアさんも同じだ。お姉さまを手に入れた彼女にとってこの街と人は用済みのゴミだ。ゴミはゴミ箱へ。『災厄の魔女』ならそうすると思う。
目的のために自分を売ったサフィーリアさんなら特に躊躇もなくサンティエの街を破壊する。
そういうことだ。『災厄の魔女』の陣営は先手を撃って来たんだ。私達の反撃の準備が整う前に内側から壊しにかかって来た。
上手くいけばこれがそのままトドメになるし、こうなってしまった時点であっち側の作戦勝ちは確定。
レジスタンスや魔法少女側は大きな損害を受けて立ち直るのに時間がかかる。
なら、私は止めなきゃ。
「何が出来るとかじゃなくて、やるんだよ。私は、私が2人を止めるよ」
「ふぅん……」
私の答えが面白くなかったのか、不機嫌そうな声と一緒に尾びれの殴打が私を襲う。避けることもままならないからそのまま吹き飛ばされて瓦礫だらけになっている石畳の道に転がる。
あぁ、やっばいなぁ。血だらけじゃん。とかぼたぼたと垂れて地面に滴る血を眺めながら悠長なことを考える。
一周回って、頭が冴えて来た気がするよね。余計なことをガタガタ考えている余裕も無くなって来たって考えた方が良いのかな。
「今の攻撃すら抵抗できないウジ虫が。一体何を止められるんです。そういう諦めなきゃどうにかなるとかいう希望的観測論に虫唾が走るんですよ」
「それは同感ね。どうにもならないことはどうにもならない。諦めたくないなら、それ以外を捨てなさい。血だらけで地面に這いつくばっている自分がカッコいいとか思って酔いしれてるんじゃないでしょうね」
「酔いしれてるよ。少なくとも2人よりはカッコいいよね」
2人の言葉を鼻で笑って腕に力を入れる。めちゃくちゃ痛いけど、どうでも良い。どうせ腕なんてもう折れてる。これ以上痛くなるなんてことは無い。
痛い目とか理不尽な目に遭う事なんてこの世界に飛び込んだ時点でわかってる。真白さんにも番長にも何度も確認されて、それでも無理を通して来たんだ。
このくらい我慢できなくてどうする。私は、ここで戦うと決めたんだ。
そう言い聞かせて立ち上がる。このくらいでへばるな、私。何より、目の前でふざけたことを言っている2人をぶん殴らなきゃちょっと気が治まらない。
「逃げてんじゃねぇよ弱虫。結局のところ、自分で自分のケツも拭けないクソガキってことでしょ」
あ、分かった。他のことを考えている余裕が無くなったんじゃないや、私。めっちゃムカついてるだけだわ。




