千夜祭
「『ルミナスシュート』!!!!」
限界ギリギリまで魔力を充填したフルチャージのルミナスシュート。威力については折り紙付き。
適当な防御じゃ防ぎきれないくらいには仕上がってる。
無理に魔法を撃ったせいで防御も間に合わないでしょ。
「――ぐ、あああぁぁっ!!」
高火力のルミナスシュートが持つ光属性の魔力に焼かれるサフィーリアさん。光属性の魔法は基本的に熱とかエネルギーの性質を持つらしく、あたると物凄く熱いらしい。
まともに受けると全身大火傷、だけど流石にそこまで簡単な話でもない。まともな防御は無理でも致命傷を避ける最低限の防御はしている。
「やったか、っていうのは早すぎるか」
「完全にフラグだよ。ま、一発でやられる程ヤワな人じゃないのはよく知ってるでしょ」
ブラザーメモリーのセリフはフラグだし早すぎるって。こんなんでやられるほどサフィーリアさんは弱くない。
むしろここから本気で来る。本番はこれからだ。
息を吞んで、ルミナスシュートに飲み込まれたサフィーリアさんの姿をいち早く確認して行動するための警戒を続ける。
魔法の威力によって起きた煙が風に流れてゆっくりと晴れていく。
「――あなた達程度に、ここまでやられるとは流石に思ってもいませんでしたよ。」
薄っすらと見えた姿は衣服や髪が所々焦げていて、一定のダメージは受けていることは確実だ。
私達の連携攻撃はサフィーリアさんに通じている。
それは確実だけれど、私の警戒心がビシビシと何かを受け取っている。
「眩いばかりの才能。正直、羨ましいですよ。こんな短期間でここまで強くなれるだけの才能も、多くの人を惹き付ける人としての魅力も。私には無いものですから」
「……急にべらべらと、なんだぁ?」
語るように、言い聞かせるようにも聞こえる言葉にブラザーメモリーは訝し気に眉をひそめて、シルトメモリーも警戒心を隠さずに盾を構え直す。
今のところ、まるで私達を褒めるかのような言葉だ。さっきまでのサフィーリアさんの態度とは一転した主張に全員が戸惑いを隠せない。
何か、強い感情を感じる。それも言葉の端々に宿るそれは酷く昏くて、ヘドロのように重いように感じる。
「まるで誘蛾灯ですよ。闇の中の強い光で、辺りの虫を手当たり次第に閉じ込め、堕とす。そうやって、私からお姉さまを奪って行く」
「なんの話だ。碧さんはたくさんの人から慕われている皆のリーダーだ。お前だけのモノじゃない」
シルトメモリーの発言はその通りで、サフィーリアさんは碧さんを独占したいという気持ちが溢れ出ている。
その結果、いや末路と言った方が良いのかも。それが碧さんに隷属紋か何かを使って操り人形にしていまうという行為なんだ。
どうしてそんな結論になってしまったのかなんて私達に知る由もない。それを詳しく知るにはサフィーリアさんを止めなきゃいけない。
でも、私達にそれが出来るのか。
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいっっっ!! お姉さまは渡さない。私のお姉さまだ!! 私だけの、私のためのお姉さまだ!!」
【『ビーストメモリー』――】
ぞわりと、肌が粟くり立つ。聞こえて来たおどろおどろしい声も、そこから漏れ出る魔力も、それがサフィーリアさんの手に握られていることも。
全部が私の頭に警鐘を鳴らす。『アレ』は今の私達に対処できるものじゃないと理解させられる。
わかっているのは私だけじゃない。他の2人も緊張じゃない、恐怖に近い引きつった顔をしていて。
「お姉さま以外、私には要らない!!!!」
【『人魚』】
握りつぶしたソレから溢れ出た魔力がサフィーリアさんを飲み込むのを、私達は蛇に睨まれた蛙みたいにただ眺めている事しか出来なかった。




