千夜祭
「死ねぇっ!!」
「やなこった!!」
サフィーリアさんはアズールさんと同じ海属性。稀有な属性だから、まだ情報が少ないけどわかりやすい特徴がひとつある。
「建物の上に!!」
「それだけ?!」
「いいから動け!!」
それは普通の水属性と比較すると操れる水の量が数十倍規模ということ。
とにかく一撃の魔法の体積が現在発見されている属性の中ではトップと言われていて、一度の魔法の発動で大規模な面攻撃が出来るのがウリ。
これは『激流の魔法少女 アズール』も大きく変わらない。
同じ属性を操るサフィーリアさんとアズールさんの決定的な違いと言えば、その破壊力。
一撃の重さは明らかにアズールさんの方が上だ。
アレをまともに受けると建物ごと水流に飲み込まれて死ぬのがオチだ。だから距離を取って耐えるしかなかった。
でもサフィーリアさんの魔法は範囲こそは広いものの攻撃性能に関してはそこまでだ。
「こうして比べると姐さんの魔法がどんだけえぐいかってのが分かるぜ……」
「あれでも本気の本気じゃないんだよ」
「話には聞いているが、アレの上があるとは末恐ろしい……」
海属性は希少な属性だけど、それに輪をかけて周辺環境に影響を受ける属性でもある。海属性は当然、海で最高の性能を引き出せる属性だ。
島国の日本だと比較的使い勝手が良いけど、正直妖精界だと海属性は真価を発揮することはほぼ無い、と碧さんは言っていた。
それを使いこなし、ただの陸地でもポテンシャルを引き出せているアズールさんとまだまだ修行中のサフィーリアさんとでは練度が違うってやつだ。
私達みたいなペーペーの新人が言う事じゃないけどね。結局のところ、サフィーリアさんの魔法だって私達はまとも受けた時点でほぼ負けだ。
ただサフィーリアさんの魔法の方がまだやり過ごしようがある。建物の上に飛び乗れば何事もなくいられているのがその証拠だ。
「先生はどうなっているんだ?」
「ありゃアレだろ、『隷属紋』ってヤツ。でも姐さん達は抵抗手段を持ってんじゃなかったか?」
怒らせたサフィーリアさんの魔法をやり過ごしながら、状況を改めて整理する。2人もいつもの調子が戻って来ていてこれなら少し戦いやすくなるなとホッとする。
平常心を保って、冷静でいることも重要なことだからね。そういう意味でもサフィーリアさんを煽ったのは本心でもあるしわざとでもある。
「『隷属紋』の方も改良されているのかも。なんにせよ、基本的な欠点は変わらないみたいだからこのまま挑発を続けるよ」
「容赦ねぇなぁ」
「戦ってる敵に手加減できるほど私達は強くないでしょ?」
「私は時々ルミナスが怖くなるよ」
ブラザーメモリーとシルトメモリーの言いようにハハハと乾いた笑いが出て来る。2人が普段見ている私の印象とは正反対のそれだろうからね。
どっちかと言えば元々の素はこっちだ。本気になればなるほど私のこういう側面は強く出て来ると思う。
ま、そんなことはどうでもいい。今は目の前の戦いでどう動くかの方が重要だ。
ブラザーメモリーの言う通り、アズールさんを操っているのは噂に聞く『隷属紋』という最低最悪の魔法と見て間違いはない。
3年前の戦いの中でも様々な猛威を振るい、魔法少女を苦しめたという『隷属紋』は意識や自我を限界まで奪い、抑制することで操り人形とする魔法。
メリットはもちろん『隷属紋』で捕らえた対象を意のままに操ることが出来ること。
欠点は『隷属紋』をかけられたモノは指示がない限り動けないという点。
自我や意識などを奪い、抑制している『隷属紋』のせいで術者の指示通りには動けるけど、指示がなければ動かない。
文字通りの操り人形。まるでラジコンのような特徴を持っている。
『魔法少女協会』に所属する魔法少女達やレジスタンス、私達も含めてその凶悪な魔法である『隷属紋』は徹底的に解析され、対抗術式を込められた護符が配られているんだけど。
それが効いていない様子を見るに、何らかの方法でこれを突破されてしまっている。
「サフィーリアさんはまだ『隷属紋』の扱いに慣れてない。本人に出しゃばらせて、アズールさんの動きを止めるよ」
アズールさんに出て来られたら私達に勝ち目はない。サフィーリアさんを引きずり出して、戦わせればまだ勝機がある。
短い時間で思いつくような作戦はこれが限界。粘って行こう。諦めなきゃ活路は開く。




