千夜祭
「最初に会った時から気に食わなかったんですよ。経験も無ければ知識もないクセに声だけは大きくて上からの印象だけは良い」
あぁ、『また』これかと思う。人間界でも散々言われて来たことだ。私なりに人付き合いを上手くやろうとして、出来るだけ愛想良く振舞っていても、こうやって陰で言われていることが多かった。
ようするに、僻みだ。私は人より勉強も出来たし運動も出来た。初めてやることも小一時間もすれば人並み以上になれる。
そういう私の特性みたいなモノは他人の受け取り方によっては物凄く不愉快なことらしい。
私にとっての当たり前と、せめて嫌われないようにとへらへらと愛想を振りまいていること。
その両方が気に食わない。
「何より一番気に食わないのは、私のお姉さまにべたべたと馴れ馴れしく接していることです」
率直に言って、そういう人に限って大して努力も何もしていない。ただ惰性で生活していて、とりあえず言われたことをして、でもプライドだけは人一倍ある。
今までの人生経験でそういう人達が私に僻み妬みを向けて来て、周りがそれに同調する。
自分達と同じことしかしていないクセに、自分達より結果を出して評価されていることが面白くないのだ。
そして厄介なのが、そういう人は案外多いってこととその感情に同調する人は軽くその倍いるってこと。
「私だけの、私のお姉さまなのに……!!後から来たお前がなんで気に入られているんです!!」
そういう感情を度々ぶつけられてきた私はそうならないようにへらへらと笑い、わざと失敗し、テストの点数も平均くらいになるように調整した。
成績が落ちれば普通の家なら親が黙ってないんだろうけど、その辺は幸いにもウチの親は私に興味が無かったから平気だった。
そうやって生きて来た。窮屈な殻に自分を閉じ込めて、出る杭は打たれないようにするのが私が私を守るために17年の人生の中で学んだ生き方だ。
「私とお姉さまの時間を邪魔するな!!!!」
「知るかボケっ!!!!!!!」
ただしそれは今までの話だ。
姉と慕う碧さんと自分の時間を邪魔するなと怒鳴り散らかすサフィーリアさんにこちらも負けじと怒声をぶつける。
まさか私に怒鳴り返されるとは思ってもいなかったのか、サフィーリアさんは面食らった顔をしていて、隣にいるブラザーメモリーとシルトメモリーからも驚いているだろう気配を感じる。
でも言葉のとおり、知ったこっちゃない。私のことを良く思わない人のために私が我慢するのはもう散々だ。
ここには私のことを本当の意味で認めてくれる人たちがいる。だったらその人達の期待に添うような努力を私はしたい。
そもそもに、だ。
「私は私に必要なことと求められていることを熟しているだけだし、それはあなたの大切なお姉さまが望んでる事。とやかく言われる筋合いはないし、見当違いもいいところ」
そんなことを言われる筋合い自体がない。やるべきことをやってるだけで文句を言って来るような人に構っているほど暇じゃない。
私はようやく単純なことに気が付けたのだ。妬み僻みをぶつけてくるような暇人に構っているより、自分を正当に評価してくれている人と何よりも自分の為に動くべきだって。
それを私の人生の中でしてくれていたのがお婆ちゃんと妖精のリュミーだったんだって今更気が付いた。
……サフィーリアさんともそうあって欲しかったし、そうだと思っていたけど今のところ本心は違うらしい。
それも何かに操られたりしているのか、本当に本心なのかを問い質したいとは思うけど。
「それに、そのお姉さまをモノみたい使っている人が、本当に碧さんを大切にしているとは思わない。今すぐ返してください」
それよりムカついているのが、お姉さまお姉さまお姉さまと連呼している割にはその碧さんを操って使っているってこと。
少なくとも大切な人にそんなことをしないし、私がリュミーやお婆ちゃんにそんなことををされたらブチギレる。
「言ってることとやってることが薄っぺらいんですよ。ちょっとは物事に本気になったらどうですか?」
「――このっ、泥棒猫が!!」
こっちも本音をぶつけて第二ラウンドの始まりだ。




