千夜祭
重い重い質量を持った水の塊が私達3人の頭上にのしかかって来る。まともに受けたら最後、首の骨がぽっきり折れるか、重さに耐えきれなくて別の骨が折れるかだ。
何にしたってただでは済まない。差なんて一撃目で死ぬか二撃目で死ぬかくらいのそれしかない。
「クソっ!!なんだってんだよ!!」
「悪態をついても仕方ありません!!二人を止めないと!!」
リベルタさんが悪態をつき、リリアナさんがそれを諫める。でも悪態のひとつも吐きたくなる。
どうしてこんなことになっているんだろう。私達は楽しみにしていたお祭りを楽しんでいただけなのに、なんで今、変身して戦っているんだろう。
しかも、私達3人が戦っているのはよく見知った顔だ。さっきまで一緒に千夜祭を楽しんでいたはずなのに、どうしてこんなことになっているんだろう。
「止めてください!!どうしてこんなことをするんですかっ!! サフィーリアさん!!!!」
私達の目の前で不敵な笑みを浮かべているのはサフィーリアさん。そしてそのサフィーリアさんに従うようにしているのは虚ろな目をしている碧さん、『激流の魔法少女 アズール』が立ちふさがっている。
水の魔法による攻撃はこの2人によるもので、周囲の損害の大半もこの2人の容赦のない広範囲魔法によるものだった。
「何度も言ってるじゃありませんか。頭が悪いですね」
「何度聞いたって納得出来ねぇから聞いてんだ!! テメェ、こんなことして良いと思ってんのか!!」
私が何度もかけた言葉、何度も何度もした制止の呼びかけと理由の追及にサフィーリアさんは呆れと馬鹿にする雰囲気を伴った声音で返して来る。
それに怒り心頭なリベルタさんが怒鳴り声を上げながら私達全員の心の内をぶつけてくれる。何度聞いても納得何てできない。
どうして、サフィーリアさんがこんな酷いことをするのか。私の知っているサフィーリアさんは真面目で堅物だけど、一本筋がちゃんと通っているしっかりした人だ。
優しくて、クールで怖い雰囲気もあるけど困っている人はほっとけないし、子供や小さな生き物が好きな普通の女の子な一面も持っている。
尊敬できる先輩で、頼れる仲間で、一緒にいて楽しい友達だと思っていたのは私達だけだったなんて思いたくない。
「あなた達にとっては許せないことでしょうね。でも、私にとってはどうでもいいことです。私にはお姉さまがいてくれればそれでいいんですから」
「それが、貴女の望んだ関係なんですか?」
「えぇ、私はお姉さまさえいれば十分ですから」
歪な笑みを浮かべてリリアナさんの問いかけに応えるサフィーリアさんはどうにかしてしまったんだろう。最初から壊れていたのか、何かに耐え切れなくて壊れてしまったのか、それとも誰かに壊されてしまったのか。
私達にはそれを確認する術は一つもない。それを知っているのはサフィーリアさんだけだ。
どうにか出来ないのか。説得は出来ないのか必死に考えるけど考えなんてちっとも纏まらない。分かってる。もうホントのところはわかってる。
でも諦めたくない。折角できた友達をまた失うなんて、絶対にしたくない私はどうにかしなきゃと考えるけど、考えれば考える程袋小路に迷い込んだみたいにすぐに行き詰ってしまう。
「貴女達なんて邪魔なハエでしかありません。鬱陶しいので消えてくれませんか?」
見下ろす視線にはほんの少し前までにあったはずの優しい感情なんてどこにも見えない。どこまでも冷徹で冷酷で、汚いものを見るような蔑みの色でしかサフィーリアさんの目に私達は写っていないのは、バカな私でもよく分かってしまった。
本当に、どうしてこうなってしまったんだろう。混乱したまま、訓練をつけてくれたアズールさんが虚ろな目のまま武器の斧を振り上げて飛びかかって来る。
何がなんだかわからない。どうしていいのかもわからない。それでも何とか身体を動かして私は敵になってしまった2人に応戦していった。




