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千夜祭


ぞわりと背筋が凍るような悪寒は過去に感じた嫌な予感のような、そういうものを簡単に超えてくるようなもの。


何か、良くないモノが辺りを覆ったような予感に私の警戒レベルは一気に跳ね上がる。


「パッシオ!!」


こういう時に頼りになるのは肩に乗る相棒のパッシオ。何も詳しいことは口にしないままでも、彼なら私の意図を読み取って最適な行動をしてくれる。


……その、ハズだった。


「……」


「……? パッシオ?」


その彼が何の反応もしない。いつもなら返事と共にその姿を本来の大きなイタチのような姿に変え、灼炎をチラつかせながら私を背に乗せるハズだ。


私とパッシオのいつも通り。何を言わなくてもお互いがお互いに最適な行動を取る阿吽の呼吸。


それは誰にも負けるつもりのない私達のチームワーク。強さの真髄そのものだ。


なのに、その彼が何の返事もしないまま。問いかけにすら応えないのは明らかな異常だった。


「ーーッ!!」


「きゃっ?!」


どうしたのか、突然のことに私も思考が止まってしまい、気が付いたら身体を大きくさせたパッシオにかなり力任せに突き飛ばされた。


かなりの力で突き飛ばされた私はそれでも受け身を取ることで宙を翻り、すぐに体勢を立て直す。


距離にして10m。パッシオがどれだけの力で私を突き飛ばしたのかはこの距離を見るだけでよく分かる。


普段の彼なら絶対にしない行為だ。もっと彼なら丁寧に、私が絶対に怪我をしないようにする。


それすらする余裕のない状況に、彼が陥っているということだろうか?

でも、そんなことをされた覚えはない。何より、妖精界でパッシオの省エネモードを見たことがあるのは片手で数えられる人数しかいないのだ。


パッシオを狙ったとは思えない。突き飛ばされた衝撃を受けてズキズキと痛む脇腹を治癒魔法で治しながら、私はパッシオの様子を確認すると、彼は何かを振り払うような動作をひたすら続けていた。


「パッシオ!!どうしたの?!」


「まし、ろ……!!」


ぐぐぐっと何かを耐えるように、振り払うように重たそうな首を持ち上げたパッシオの目は見開かれ、口元は泡立ち、興奮した様子を見せている。


やはり異常だ。何かの病気かもしれない。突然興奮してしまうというなら、身体の機能に致命的なダメージのようなものがあるかもしれない。


「来るなっ!!!!」


すぐに治療しなきゃと足を踏み出した私に、パッシオは聞いたこともない怒声を私に浴びせる。


初めてのことに驚き、混乱する私に彼は何か明確な返事をしてはくれない。


いや、する余裕がないのだ。何かにもがき、苦しんでいるのがここから見てもよく分かる。

やっぱり、すぐに治療をーー。


「逃げろ!! 真白っ!!」


噴き上がる紅蓮の炎。何度も見た、常に私を守り、私と共に戦ってくれた炎が初めて私に牙を剥く。


咄嗟に避けることは出来たものの、その事実が私の思考を苛んでいく。

疑問、疑念、困惑、恐怖。悲しいのか苦しいのかもわからない。


ただ「どうして?」という気持ちが大きく膨らんで……。


「やめて!!パッシオ!!」


「アアア"アアアアッ!!!!!」


完全に戦闘体勢に入って、炎をあたり構わず振り撒くパッシオに懇願の声をあげることくらいしか、私に出来ることはなかった。

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