千夜祭
真面目な話をしてしまったせいか、周りの喧騒の中で私達の空気だけがやたらと静かになってしまった。
「私のつまらない話なんてお祭りの日に聞いてないでもう少し遊びましょ」
「そうですね。でも、また色々聞かせてもらっても良いですか? 真白さんのお話は私からすると何を聞いても勉強になるんです」
「もちろん良いわ。貪欲に来なさい。エゴイストにならないと理想なんて叶えられないわよ」
ぱんぱんと手を叩いて妙に重くなった空気をリセットすると、パッとみんなに笑顔が戻る。切り替えが早くてよろしい。
それでも、昴さんは私の話をもっとたくさん聞きたいと言う。まだ高校生の彼女はこれからの将来、自分が何になれるのか、なりたいのか。
明確なビジョンが浮かんでない、難しい時期だと思う。墨亜も同じような時期で、色々と悩む年頃の彼女達の道標になるのなら、私は喜んで協力しよう。
「君もまだ20歳にならないじゃないか」
「正確にはもう30歳なんだから、これくらいは当たり前よ」
「ああ言えばこう言うねぇ」
パッシオが笑っているけど、多分私が後進の育成に他の面々よりも積極的なのは、身体の年齢より無自覚に認識している本来の『小野 真白』の年齢から来た価値観も絡んでるんでしょうね。
小野真白として、25歳男性だった私としての記憶は全く無いけど、培った技術と経験、記録はある程度残っている。
そういう含蓄が今の私の精神の形成に影響を与えているのは何となく理解している。
どんなに忘れても男性だった私も私なのだから。
「そうです。真白姫様、パッシオ様。おふたりで千夜祭を楽しんではいかがですか?」
そんなことを考えているとサフィーリアさんが手を叩いて何やら提案をしてくれた。
まあ端的に2人で遊んで来いっていうシンプルな内容だ。特にわざわざ今ここですることもないと思うんだけど……。
「お、そうだな、行って来いよ。ウチらここでちっと休憩してっからよ」
「明日からは千夜祭に関わる行事に出ずっぱりだと聞いていますし、今のうちに行った方が良いですよね」
「姫さんも団長も人目を気にせず出歩ける滅多にないチャンスだろ?」
碧ちゃん、リリアナさん、リベルタさんはサフィーリアさんの提案に賛成らしい。
困ったな。そういうつもりじゃなかったんだけど。
「いつもはなんだかんだ人目についてしまっていますから、本当の2人きりで出歩ける最初で最後のチャンスかもしれませんから」
「だったら行った方が良いですよ!! おふたりとも仲良しなのに最近は全然一緒にいないじゃないですか」
どうしようかと肩に乗るパッシオと目を合わせていると、サフィーリアさんからはダメ押しが、昴さんは私の背中を押して、さあさあとイタズラっぽく笑っている。
「わかったわかった。みんなの好意を受け取ることにするよ。でも、何かあったらすぐに連絡してね」
「確かにみんなの言う通りかもね。ちょっと散歩してくるから、よろしくね」
押しの強さに根負けした私達は好意に甘えて2人で千夜祭を回ることにする。
昴さんの言う通り、確かにここ最近は仕事の兼ね合いの都合で以前より2人でいる時間は減っている。
私が色々と気にし過ぎて、無意識にパッシオを避けてる節もあるし、いい加減元の調子に戻さなきゃならない。
「じゃあ行ってくるわ」
路地の入り口で休憩を続けるみんなに手を振って、私はパッシオを肩に乗せて歩き出した。
その時点で心臓がばくばくし始めてくるんだから、我ながら笑ってしまう。
どうしてこういうことには全くと言っていいほど耐性が無いんだか。




