千夜祭
踊って騒いで、たまに屋台で品物を物色してを繰り返しながら旧王都をぐるり回るように練り歩いて行く私達。
しばらくそうやっていれば自然と疲れて来て、私達は大通りの喧騒から一歩離れて、空き地にあった箱の上などに各々腰かけて休憩をすることになった。
「いやぁ、遊んだなぁ」
「なんだかこうやって誰かと大騒ぎするのは久しぶりね」
ぐぐぅーっと伸びをする碧ちゃんは久々に遊んで回っていることを楽しんでいるみたいだ。もちろん、私も他の皆も楽しんでいる。
ただ特に私とか碧ちゃん、魔法少女組は普段から仕事に追われていてここ最近は遊びというのはほぼ無かった。
時折、強制的に休みを取らされてはいるものの、その時は遊びというよりは休みで私達の歳相応に遊ぶというのは、考えてみるとここ数年単位で無かったように思えた。
「やっぱり、魔法少女って忙しいんですか?」
「忙しくはあるだろうけど私達はちょっと特殊かな」
「一般的な魔法少女よか段違いに忙しい連中が多いからな。特に真白はヤバいぜ」
「他にも色々掛け持ちしてるのは私くらいかもね」
20歳前後の同い年の子達がキャンパスライフを謳歌しているのを見ると正直羨ましいと思うことはある。
自分の時間があって、友人と自由に遊ぶ時間がやろうと思えば好きなだけ作れる大学生活。それを二度も経験しておきながら、私は結局そんなキャンパスライフを一度も経験することなく過ごそうとしているんだから、我ながらバカだなぁとも思う。
魔法少女としての仕事、後進の育成、自分が立ち上げたNGOの運営とか諸星家としての用事だってある。
忙しくしているのはいつだって自分だ。今だって、旧ミルディース王国の運営の中心人物として当たり前の顔をして携わっている。
「でも、後悔はしてないわ。私がやると決めたことをやっているだけ。私は必ず魔法少女が戦わなくても良い世界を作って見せる」
3年前に打ち立てた目標は未だに遠い。人間界では魔獣被害が未だ絶えることは無く、対応するのは魔法少女であることに変わりは無い。
対魔獣用兵器の理論は既に一定の成果は上げているものの、未だに現実的な運用に至っていないのは対魔獣用兵器は対魔法少女用兵器にも成り得るから。
魔法少女の負担を減らすために開発された兵器が、魔法少女に向けて放たれるようなことがあってはならない。
人間界には魔法少女を兵器として運用している国も存在する。そういった国の魔法少女を協会が保護出来ないまま、魔獣用兵器の運用が本格化した場合、兵器運用されている魔法少女達にいつかその銃口が向けられるのは避けられない未来だ。
これを解決できない限り、魔獣用兵器を広く普及させるのは難しい。平和のためのものが騒乱の原因となった事例など、人類の歴史の中では山ほどある。
「そのためには、妖精界の問題を、ショルシエをどうにかしないとね。あの魔女がいる限り、ふたつの世界に安定と平和は無いわ」
そして『災厄の魔女 ショルシエ』の存在は人間界、妖精界、双方にとって脅威だ。既にどちらの世界でもその根幹を揺るがす事態を引き起こし、それを楽しむ魔女がいる限りはやはり平和はないだろう。
あの魔女は平和や安定とは真逆の存在。騒乱と混沌を良しとする。私達とは決して相容れないと分かっている以上、あれだけは絶対に倒さなければならない。
3年前に偽者だったとはいえ、倒せなかった私達の責務でもあると思っている。
「……凄い、ですね」
「理想ばっかり語ってるめんどくさい人間ってだけよ」
私の自分語りを聞かせちゃったかなと思ったけど、昴さんはそれを凄いと評価してくれた。ありがたいことだ。そうやって、私の無茶苦茶な話に付き合って来てくれる人たちにはいつも感謝してもしきれない。
「そういう君だから、人が付いて来るのさ」
「そうだと良いけど」
フォローを入れてくれたパッシオがその最たる例だけどね。
 




