千夜祭
花火が上がり、花びらが舞い散っても私はこの部屋から動くことはしない。というより、動くことが出来ない。
これだけの大騒ぎだ。何が起きるか分からないという防犯上の都合も当然あるけど、何よりお祭りとは一般の民衆のためにあるもの。
私は残念ながら上の立場の者だ。祭をするための準備や運営には携わるけど、そこに参加することは出来ない。
「難儀なもんだねぇ。『千夜祭』の成功のために駆けずり回った一番の功労者が、その祭を遠くから眺めるだけなんてよ」
「そんな私に付き合ってくれる貴女も大概じゃない?」
パッシオとバルコニーに並んで『千夜祭』が開かれてるサンティエの街を見下ろしている後ろでソファーに座りながら飲み物を口にしている碧ちゃんの姿がある。
彼女はいつも通り、サンティエの防衛力や兵力の育成を任されている、いわば兵長だとか兵団長とかそういう立場だ。
本人は否定するだろうけど、彼女の指示で今保有している兵力の殆どを動かすことが出来るくらいの発言力と権力がある。
「行く気になりゃいつでも行けるウチと、行きたくても行けないお前とじゃ全然ちげぇだろ」
「だからこそ、私に付き合ってくれる貴女の優しさが身に沁みるんだけどね。良い友人に恵まれたって」
「だぁ~、やめろやめろ。背中がむず痒くなるっつーの。どうせこの後はサフィーと昴達に拉致られることが確定してっからここにいるだけだって」
「ははは。引率係も大変だ。昴君達は特にお祭り好きそうだし、サフィーもああ見えて案外子供っぽいからさ。そうやって連れてってくれる君の優しさには、いつもおんぶに抱っこだよ」
私とパッシオに褒められてありがたがられて、碧ちゃんは背中を掻くフリをしているけどただ恥ずかしいだけだ。
人一倍優しい人柄が、ここ最近は荒っぽい口調と態度じゃ隠せてないからね。そうじゃきゃ、魔法少女協会という巨大な組織の中で、そのリーダーとして一目置かれているなんてことにはならない。
「そうやって褒め殺しにしようとするの、勘弁してほしいんだよなぁ」
「それだけ優れた人間ってことよ。少なくとも、貴女を悪く言う人って物凄く少ないし」
「言う事好き勝手言ってるだけなんだがなぁ」
「好き勝手言っているように見えて、その頭の中では計算された発言ばかりだからね。ズバズバ好き勝手言っているように見えながら、絶対に芯の部分は外さないしブレない。そういう人は魅力的に映るものさ」
リーダーとして魔法少女をまとめ上げ、メディア露出も高いというのに『激流の魔法少女 アメティア』の印象はすこぶる良い。
魔法少女として最も人々の信頼を勝ち取っている魔法少女の1人と言っても良い。
私?私は裏で色々やってるもんだから、一部からは魔法少女としての仕事を放棄しているとか、事業ばかり立ち上げて荒稼ぎしているとか、大して強くないクセにデカいツラしてるとか、まぁまぁ拾い上げれば色々な声があるわ。
その殆どが勝手な妄想で出まかせだけどね。特に荒稼ぎしているとかそういうのは完全にデマのそれだし。
私が運営しているのはその殆どがNPOやNGO。非営利団体というヤツだ。ちょっとは文字のひとつで良いから読んで欲しいものだけど、そういう事をしている迷惑な団体が多いのも事実。
頭が痛いわ。その点、碧ちゃんはとても上手く立ち回っている。天性の勘は今もこういうところに役立っているのでしょうね。
「あー、やめやめ。もう変装でも何でもして祭に参加しようぜ」
「それも良いわね」
「え、本気で言ってる?」
ギョッとするパッシオをよそに2人で悪だくみをする子供みたいな表情をする。さてさて、どうやって『千夜祭』に参加しようかしらね。




