女学生失踪事件
本体の男が右腕に魔力を纏わり付かせ、何十とある薄い障壁を無理矢理引き剥がす。
【memory boost!!】
無理矢理動かした腕で左手首にある機械に触れ、また電子音声が鳴り響く。
再び魔力が膨れ上がり、あの魔力の塊で障壁諸共辺りを吹き飛ばそうと言う算段なのだろうけど。
「させる訳、無いでしょう?」
一斉に無数の障壁が動き出す。男を更に拘束するのもあれば、幾重にも重なって壁のようにも変化する。
その様はまさに花吹雪に相応しい見た目だ。障壁の魔力がきらめき、妖しい輝きは何も知らない人からすればさぞや美しく見える事だろう。
「お返しよ。他人から奪ったでしょう魔力、その身を以て感じ取るといいわ」
ただし、使われ方はエゲツない使い方だけども。
奴は今まで、魔力を放つ、と言う動作を全て身振り手振りで行なっていた。私達もしない訳では無いけど、それはあくまでその方がイメージが湧き、コントロールの精度が上がるからだ。
私達は別に必ずその動作が必要な訳じゃ無い。
ただし、奴は纏わせた魔力を拘束されてるせいで撃ち出す事が出来ていない。
それはつまり、あの男はその身振り手振りが無いと魔力を撃ち出せないと言う証拠。
「貴様……っ!!」
自分の身体を離れて、攻撃するつもりだった魔力は膨れ上がって、もう奴にもコントロール出来ていない。
それがどうなるのかは、明白だ。
「戦い方は確かにプロよ。戦略の組み方も身体の使い方も数段上。でもね、貴方、下手くそなのよ。魔力の使い方がね」
「ぐぬぅ……っ!!やはりただの野良ではーーーー」
四方を厚い障壁の層に囲まれた奴は、苦し紛れの言葉を漏らしながら、自らが操っていた魔力を分身も巻き込み暴発させた。
展開していた無数の障壁をほぼ使い切ってもなお押し込めきれなかった爆発の衝撃は何度目かの砂埃を巻き起こして私達を呑み込む。
残っていた僅かな障壁で砂埃から自分を守りながら、私は移動すると、少し離れた位置にいたアメティアとノワールの障壁を解除する。
「ごめんね2人とも」
「いえ、アリウムの障壁が無ければ、今頃怪我では済んでないでしょうから。ありがとうございます」
「アリウムお姉ちゃんすごいカッコよかったー!!」
咄嗟とは言え、彼女達を閉じ込める形になってしまったのは、私のミスだ。その事を謝ると、2人はかぶりを振ってそれを否定し、ありがとうと言ってくれた。
ノワールに関しては大きく手を広げてカッコいいと褒めてくれた。子供らしい身体を使った表現は可愛らしい限りだ。
「驚いたぜ。ありゃ『固有魔法』か?」
「まさか、ただの障壁魔法よ」
「あれがただの、な訳ねーだろ。ま、細かいことは良いけどよ。アリウムがとんでもねぇってのだけが改めてわかっただけだからな」
「なによそれ」
アメティアの近くまで来ていたアズールにさっきの障壁は何だと言われるけど、あれは障壁魔法の延長上にあるものでしかない。
最終的にとんでもない奴扱いなのだから、大変不服だ。アズールなりの冗談なのは分かってるけど。
「大丈夫か?」
「ホントとんでもないわね。土壇場であんなこと出来る?普通?しかもエゲツないし」
雑談をしているとフェイツェイとルビーの2人も合流した。
2人とも大きな怪我は無いようだ。これで奴の分身も根こそぎ屠られたという事。
そもそも、本体がどうなっているかもわからない。運が悪ければバラバラになっているが、果たして生きているだろうか。
後は委員長を見つけるだけだ。




