到着、スフィア公国
しかたない、という雰囲気のそれに気が付いているのは多分私だけだそのことにリアンシさんも気が付いているらしく、目配せをした後にパチンとウィンクをしてから別の提案を口にした。
「いや、スタンはスミア嬢と一緒に旧ミルディース王国に向かうといい」
「え?でも僕が残った方が効率が良いような……」
「ウチにも考古学を研究している学者はいるさ。ありったけ呼びつけて古代の戦いについて研究させるよ。その中にはお前の知り合いも大勢いるだろう」
リアンシさんの提案はスタンと私が一緒に旧ミルディース王国に向かう事だった。当然、疑問を浮かべるスタンだけど、領主らしく多少強引にでも人を動かせる立場だから確かに理には適っているいるように見える。
「公国以外にいる人物だけリストアップしてほしい。そうすれば自由に行動出来るだろ?」
「そうですけど、何故?」
「一度くらいは真白姫に挨拶しておいた方が色々と都合が良いだろ。プリムラ姉さんの娘とは思えないほどクセはあるけど、ああいうのには媚びを売っておいた方が良い」
少しくらいはオブラートに包んだ方が良いと思える発言だけど、共感は出来る。
真白お姉ちゃんは一筋縄ではいかない人だ。変に媚びを売れば勿論煙たがられるけど、優秀な人材には糸目がない部分もある。
自分が計画したものを実行させるためには平気で国とか国際組織を利用する。割と普通に狡猾でえげつない人でもある。
お母さんがそういう風に教育したっていうのもあるけど、元々真白お姉ちゃんはそういう気質が強いと思う。
お姉ちゃん曰く、自分は酷いエゴイストだって言ってたしね。
「媚びって、もうちょっと言い方は無かったんですか……?」
「スタンなら気に入られるだろうから問題ない。とにかく、スミア嬢と旧王国に向かってくれ。あっちの技術に触れるいい機会でもある」
一度価値観をぶっ壊されて来な、と笑って締めくくってリアンシさんの話はお終いらしい。
この集まりも各自方針が決まったことでお開きのタイミングという事で各々が声をかけながら席を立ち、それぞれの役割を果たすために別れて行った。
「気が利かない弟で悪いね」
「え?あ、いや、そこまで気にしてないんですけど……」
「今はそれでいい。ただ、あんまり凝り固まるとタイミングを逃すよ。君のお姉さんもそうだし、僕も危うくそうなりかけた」
それってどういう意味ですか?って聞こうと思ったけど、リアンシさんは手をひらひらとさせて居城である樹王種の中へスタンを連れて歩いて行ってしまう。
言わんとしていることは何となく理解はしているけど、そんなに顔に出てたかな。なんかちょっと恥ずかしくなって来た。
熱くなっているような頬をなんとか誤魔化そうとしているとなんだか余裕そうな笑顔を浮かべて紫お姉ちゃんが歩いて来る。
「良かったですね。旅が続いて」
「べ、別にそんなに嬉しくないです」
「仏頂面が珍しく緩んでますよ。そうしてた方が可愛げがあるんですから、昔みたいにニコニコしていれば良いのに」
誰が仏頂面だ、と文句を言いたいけどクラスメイトからは無表情で怖いだの、仮面でも被ってるだの言われることもあるから言い返せない。
それが崩れている自覚もあるから尚更だ。ホント、なんでこんなになるんだか。
「わかりますよ。最初は特に意識もしてなかったんですけど、長い時間一緒にいると妙に愛着がわいて来るんですよね」
「……惚気ですか?」
「そういうことにしておいて良いですよ。なんだかんだ、文句は言ってますけど大事にしてもらってる自覚はちゃんとありますから」
くっ、完全に余裕の対応をされている。私と歳は3つしか変わらないんだから、大人になったら皆同年代のくくりなのに、どうしてこんなに差を感じるんだろう。紫お姉ちゃんが単純に大人で私がまだまだこどもっぽいだけなのかな。
「ま、私は特に何もしませんよ。まわりがとやかく言って良かった試しを見たことがありませんし」
ちょっかいを出したリアンシさんに対し、紫お姉ちゃんは特に何をするつもりでもないらしい。そっちの方が個人的には有難いけど、それはそれで複雑な気分になる。
「……あ、紫お姉ちゃんに一応伝えたいことがあるんだけど」
話はこれでお終い、になる前に1つ重要なことを伝えておきたいことがあるのをギリギリで思い出す。
『獣の王』に関わるかは微妙だけど、ビーストメモリーのこともあるし、紫お姉ちゃんに知っておいてもらうのが一番いいと思う。
私が未来視で見た、パッシオの尻尾が真白お姉ちゃんを貫いている、あの光景の事を。




